【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました 7

二百八十六話 ［猟犬としての彼］ ページ38

「居たぞ！あそこだ！！」



カジノの廊下を、ただただ駆け抜ける。



「待て！撃つな！生かして連れ帰れと命令された！！」



向かってくる警備員を交わし、投げ飛ばす。
あちらは銃を向けてくるものの、急所は狙っては来ない。



「だからってこっちは遠慮しないけど」



「きゃっ…投げるなら云いなさいよ！！」



目の前に落ちてきた警備員を見て、モンゴメリは悲鳴を上げた。
後ろに隠れるようについて来ている彼女には、少し刺激が強かったようだ。



「もうすぐ敦達と合流できる筈だけど…」



閃光弾のピンを引き抜きながら、Aは物陰から廊下の先を盗み見る。
ある程度保持して、閃光弾を投げると、白い光が辺りを包んだ。



「慥かこの廊下の先に…」



目がしばらく使い物にならなくなった警備員を飛び越え、角を曲がった瞬間。



「なっ…」



「お前…！」



廊下の先に見える、軍服を着た男。
瞬時にAは銃を構え、モンゴメリを反対方向に突き飛ばした。



「行って！早く」



「でも…貴女は」



「大丈夫、ここは私がどうにかするから…敦達をお願い」



モンゴメリはぐっと唇を噛み、そして背を向ける。



「貴女も死ぬんじゃないわよ…A」



「！」



勿論、遠ざかっていくモンゴメリの背中にそう返す。
そして、決意したように彼の方を向いた。



「マフィアから猟犬に転職とは…お見事と云うべきか」



銃口を"彼"に定めたまま、何処か揶揄うように笑う。
皮肉めいた云い方は、太宰に似ていた。



「いや…本職はそちらか」



「…お前、気づいてやがったな」



"彼"の顔はあの時と変わらない筈なのに、何処か違って見える。
聞きたいことは山ほどあった。
なんのつもりなのかと、与謝野先生達はどうなったのかと。



「云いたいことは山ほどある…でも、今はこれだけを伝えたい」



感情に飲み込まれないように、ぐっと拳銃を握りしめる。
そして、ゆっくりと銃を下ろした。



「なんのつもりだ」



「"犯人"でも無いのに、抵抗する理由は無いもの」



彼の目に自分はどう写っているだろう。
粛清対象か、それとも魔女の娘か。



「立原道造」



それでいい、それでもいいから。
これだけは信じて欲しい。



「探偵社は無実だ…なにもしていない」



今更、言葉が意味を持つとは思わなかった。
でも、本当に…誰かが傷つき、血を流さなくてはこれは終わらないのか？



「どうか、信じて」



そうは、思いたくなかった。

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