【文スト】この世界と番外編 その十三

＊ ページ39

その晩、立原は妙な時間に目が覚めた。
日々の疲れを癒すために旅館に泊まったのだが、
そこで探偵社員であり魔女の娘でもある小泉Aと遭遇した。
非常に胡散臭い偽名を使いながら。







「…幽霊、ねぇ」







先ほどのAの言葉が蘇る。
まるで"ここには居ないが他の場所には居る"ような、気味の悪い云い方。







ガタン








「うわっ」








部屋の外から聞こえた物音に心臓を吐き出すほど驚く。
嫌な汗が鼻の頭に浮かんだ。







ゴトン







浮かんだ汗をぬぐい、恐怖に震える足を奮い立たせ、立ち上がる。
あんな噂嘘っぱちだ、幽霊が出るなど。
でも、こんな時間に誰が。







「ッ、」








震える手で襖に手をかけ、勢いよく開ける。







「ぎゃぁぁぁあぁ！！」








暗がりに浮かぶ、黒い服を着た女。
黒い髪の間から、怪しげな紫色の目がのぞいている。
立原は悲鳴をあげ、腰を抜かした。








「うわっ…シッ！！」









女は立原の口を押さえて、その場に倒れこんだ。
暗がりの中で、彼女の顔はぼんやりと見えた。







「こ、小泉…A…」







Aはキョロキョロと辺りを見渡し、立原を引きずって空き部屋に入った。







「なにやってんだよこんな時間に…ま、まさか幽霊騒ぎはお前の…！」








「そんな訳あるか」







幽霊が出る、だから霊媒師を呼んで除霊などを行なっているのだが
一向に良くなる気配も無く、料金もバカにならない。
それを怪しんだ女将が探偵社に依頼してきたのだ。
だが、内容が内容なだけに誰がやるかで問題になった。
押し付け合いの末、探偵社全員での賭けをして、太宰のイカサマでAが担当することになった。








「幽霊騒ぎは…人間の仕業って思ってんのか…？」








「件の霊媒師を見てみたが、あれは詐欺だ、うん」








「はっきり云うな！！」







Aが暗闇の中、天井の方をチラリとみる。







「天井裏から呻き声がする、誰も居ないのに廊下を走る音が聞こえる…。
そんなものが幽霊の仕業だとでも？」







Aは空き部屋に飾ってある薙刀の作り物を手に取る。
そして、カタンと、音がした天井目掛けて突き刺した。







「は！？」







「あ、刺さったかも」








「おいおいおいおい！！」








「少しくらいは大丈夫だから」








そう云って薙刀を引き抜くと、天井から落ちてきたのは幽霊では無く、薄汚れた人だった。

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