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また、夢を見た。






『貴女がいるせいで私達は惨めになるの…!』







『どうして今更…本家の血が薄い娘が出しゃばって』







『貴女は私達の云う通りにしていればいいのよ』








『お前のせいだ!お前の!!』







「ッ、…は…」







弾かれるように、目を覚ました。
汗のせいで服がじっとりと肌に纏わり付いている。
荒い呼吸を繰り返しながら、時計を確認すると深夜二時だった。







『またあの夢か…』








起き上がり、ぐしゃりと髪を乱す。
嘲笑するような笑いすら込み上げてきた。







『なんで…こうも莫迦みたいな夢を見るのかな』







夢に出てきたのは、自分に悪意を向ける人々。
クラスメイトや、引き取られた家の者、義理の親。
どれも苦しい思い出しかない彼らは夢の中でも時折追い詰めてくる。







『きっと、雨が降っているからだ』







母親が死んだ日、自分が生まれた日、父親が死んだ日。
そのどれも、雨が降っている日だった。
思えば階段から落とされた日も、朝から雨だった。
雨は、自分の苦い思い出に常につきまとっている。







「はは…は…」








例え今が満たされていても、大切なものを失い、矜持を踏みにじられた過去は消えない。
時折こうして見る悪夢はそれを思い出させてくる。








「…ッ、う…」







泣いても、叫んでも、誰も助けてくれなかった。
絶望と孤独の味を思い出し、喉の奥が熱くなってくる。
今まで、泣いたって意味なんか無かった。
だから無駄なことはしまいと泣かないようにしていたのに。
莫迦みたいだと思った、怖い夢を見て泣くなんて子供だと。
それでも、嗚咽が止まらなかった。







「ッ、ぅあ…」







情けなかった、雨の日が本当は怖いなんて。
心を踏みつけられた恐怖を思い出してしまうなんて、云えるはずもなかった。
雨音が響く部屋で泣き声を噛み殺し、なんとなく横を向いて見た。







「…ひえっ」








寝ていると思った太宰の目が、暗闇でも判るほどかっ開かれていて悲鳴をあげた。
なんだその目は、どんな心境の顔だ、とツッコミたくなる。
でも、今回はそんな余裕は無かった。







「見て…たんですか…」







顔から火が出そうだった。
恥ずかしくて、消えたかった。
ベッドから起き出して、部屋から出る扉に向かう。







「すみません、ちょっと頭冷やしてきま…」







その言葉は、太宰に後ろから抱きしめられて云い切ることは叶わなかった。

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もこすけ(プロフ) - あさん» ご指摘ありがとうございます。その通りでございます。直しておきます。ありがとうございました。 (2021年11月8日 17時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
- すみません、「あの娘は誰の子?」の小雪ちゃんのセリフで「私は過去から来たんだよ」と言っていますが「未来」の間違いではないでしょうか私の勘違いや解釈違いであったら申し訳ありません (2021年11月7日 17時) (レス) @page32 id: b7271b87d8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ワンコソバさん» 折角のお話、申し訳ありませんでした。応援のお言葉、ありがとうございます。これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします。 (2019年5月5日 13時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ワンコソバ(プロフ) - そうでしたか…。残念ですが、それからのもこすけさんが書く作品を楽しみにしてます!頑張ってください!(^○^) (2019年5月4日 20時) (レス) id: c31389e4fc (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ワンコソバさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます。そういった応援はとても嬉しいです。リクエストなのですが、現在締め切っております。他作品とのコラボも、基本的にご本人様からのリクエストのみ受け付ける形となっています。折角のお話なのに、申し訳ありません。 (2019年5月4日 18時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2019年4月6日 19時

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