【文スト】この世界と番外編 その十三

あの娘は誰の子？ ［有栖様リクエスト］ ページ32

その日、Aは同期の敦、後輩の鏡花と共に依頼に向かっていた。
そこで橋にさしかかった時、遠くにひとりの少女を見つけた。
闇のような黒を持つ背中まで伸びたくせ毛が特徴的だった。



「…良い河だね」



少女はそんなことを呟き、橋を飛び越えた。
比喩ではない、直喩だった。



「うわぁぁぁぁ！！」



「敦！！いけ！！」



虎化した敦がダッシュする。
ギリギリのところで虎の爪が少女の服の首元をつかんだ。
ぶらんぶらんと少女の足が空中で揺れる。



「あ、危ないよ…！？」



「助かったか…ちぇっ…つまんないの」



太宰のようなことを呟きながら、少女は引き上げられる。
Aと鏡花が駆け寄ると、彼女は驚いた顔をした。



『綺麗な子…』



大人びたようにも見える、十五、六歳ほどの少女。
背中まで伸びた黒く柔らかそうなくせ毛。
透き通るような白い肌と、恐ろしく整った目鼻立ち、血を塗ったような唇。
そして、



「紫の瞳…？」



Aと同じ、紫色の目だった。
人形のように整った容姿をした少女は、驚いた顔をパァッと明るくする。



「お母様！」



「…は！？」



飛びついてきた少女がAに抱きつく。
Aは当然驚いた顔をするし、敦と鏡花も目を丸くする。



「あの、人違いじゃ…」



「ううん、貴女は私のお母様だよ、小泉Aさん」



少女はAから離れると、スカァトの裾を持ち上げて恭しくこうべを垂れた。
柔らかそうな髪がふわりと揺れる。



「私は未来から来たんだよ。ちょっと厄介な異能に巻き込まれてしまってね」



うふふと少女は笑う。
だがAは笑えなかった。
仲間二人の視線を思っ切り浴びながら、Aは一分ほど経過してから、
震える指で少女を指差して、問う。



「私の…娘ってこと…？」



「別世界のね。会えて嬉しいよお母様！
別にお父様に会おうとは思ってなかったけどお母様は嬉しいね！」



再び抱きついてくる少女は可憐だった。
だがAはろくに反応できずにされるままだった。
今、考えていることは一つ。



「父親が誰なのか聞くのがとても怖い気がする…」



なんとなく自分の顔立ちと、もう一つの顔が合わさった少女を見て、Aは口元を引きつらせた。
どうにも、その顔に見覚えがある気がしたのだ。

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