【文スト】この世界と番外編 その十三

＊ ページ16

赤いコードを切った。
なのに街の何処からも爆発の音が聞こえない。
そして、国木田のあの言葉。







「…まさか」







爆弾の電子板には『解除』の文字。






「あの爆弾は"君の入社試験"で使ったものと同じタイプのものだ…知らないはずは無い」







その瞬間全てを理解した。
そして爆弾を持ち上げ、床に叩きつける。







「…気づいていたのか」







金属音を立てて壊れた爆弾の中身は、空っぽだった。







「もし君が本物のAだとしたら、何千人も死ぬかもしれないコードをそんな簡単には切らない。
ましてや…例え間違っても不正解のコードを故意になんてね」






後ろから聞こえる数名の足音。
静かなロビーでその音はやけに大きく聞こえた。






「そして、君は僕達を甘く見過ぎだ」






ゆっくりと振り向く少女は、既に"仲間である小泉A"の仮面を外している。
その顔に浮かぶのは冷たい支配者の鋭さ。







「いつからお気づきに？名探偵さん」







「まさか君、気づいてるのは僕だけだと思ってるの？
莫迦か君は、いや違う、莫迦だ君は」







探偵帽を被りAを指差す探偵、江戸川乱歩。
その後ろには国木田と敦、鏡花がいる。







「皆、君が偽物だと気付いていたよ。
顔、声、仕草、話し方が同じでも…君はAじゃない。
判るんだよ、その為にこんな場所も用意した」







「どう云うことか、説明して貰おうか」







国木田が眼鏡を押し上げる。
騙していたと思っていたが、逆に騙されていたのは自分だったとは。
Aは嘲笑気味に口角を上げる。






「…あの人は何処？」







鏡花の鋭い声に、Aはフッと笑った。
哀れな仲間たちに真実を伝える為に。







「もうこの世に居ない、鼠に食われて死んだよ」







「ッ、なんだって！！」







鼠たる自分が殺した。
そう告げれば敦は激昂したように声をあげる。






「弱いものは淘汰される、それがこの世界の、この救いようのない世界の運命だ」






Aと同じ声で、悲しげにそう彼女は紡いだ。
他者から踏みつけられ、ずっと利用されてきた絶望の色はAと同じだった。







「ごめんなさい」







そう告げた少女に、彼らは皆驚いたような顔をする。
謝罪に驚いている、そう思ったが彼らの視線は何故か後ろに注がれていた。







「にゃあ」







「ッ！！」







後ろから、自分と同じ声が聞こえたと同時に体に衝撃が走った。

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