【文スト】この世界と番外編 その十三

あの日の黒を知れ ［奈美様リクエスト］ ページ1

探偵社で以前、賞金がかけられていた太宰の前職を最初に知ったのは小泉Aだった。






「そう云えば、Aちゃんって太宰さんの前職知ってたの？」







唐突に、思い出したかのように同期の敦がそう聞いてきた。
Aは目を丸くして、そして「あぁ、うん」と素っ気なく返す。







「芥川との騒動の時に、少し」






「そうなんだ、太宰さんが元マフィアって知った時、Aちゃんだけ反応薄かったからなんでかなって」







「…別に、そこまで驚きはしなかったけど。
それに…過去は過去で、大切なのは今だから」







Aは淡々とそう答え、まとめた資料をファイルに挟んだ。
そう、驚きはしたが拒絶はしなかった。
あの時、マフィアだと知られた時の太宰の子供のような顔を見れば
誰かに話そうとも拒絶しようとも思わなかった。







「過去にヤンチャしてたのは私も同じだし」







話をすり替えるようにAは「ははは」と乾いた表情をした。







「ところで、さっき捕まえた犯人、目覚ました？」







「あ、うん、さっき起きて国木田さん達が証言取りに行ってるよ」







犯人、というのは連続行方不明事件を起こしたと考えられている犯人だ。
ついさっき、国木田と太宰のペアに捕まり、別室にいる。
Aが「一応行く」と云うと敦と鏡花もついてきた。
部屋の前に行くと、騒ぐ声が聞こえる。
扉を開くと、声はさらに鮮明に聞こえた。







「俺は何も知らない！今すぐ離せ！！」







「騒ぐな！証拠はもう上がっているのだぞ！」







「国木田君ふぁいとぉ」







犯人と国木田の叫び声の中、太宰だけは呑気に椅子に座っていた。






「おやAちゃんに敦君、鏡花ちゃんじゃないか」






「なんの騒ぎですか」







「いやぁね…彼、元マフィアで逮捕云々になるとちょぉっと面倒なのだよ」







「あー…それは」







たしかに面倒な案件だな、と思っていると男がギロリとこちらを向いた。
そして、Aをみて笑う。







「よくもまあ呑気に話せるな」







「は？」







「そいつが誰か判っているのか？元マフィア幹部だぞ」






「知ってる、それに今は関係ない」







バッサリと切り捨てたAに男は更に嘲笑うような顔をした。







「関係ない？…ならば知ればいい」







突然、ぐらりと視界が揺れた。
最後に見えたのは、男の嘲るような声だった。







「黒を、知ればいい」

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