【文スト】この世界と番外編 その十二

＊ ページ21

花吐き病、それについて調べれば調べるほど謎は深まっていった。
探偵社は彼方此方に赴き、情報を集めたがいかんせん発症例が少なく、わずかな情報しか得られなかった。






「判ったのは、吐く回数が増えれば増えるほど危険だってことくらいか…」







「…まずいね」







Aが不在の会議室。
ここ三日、散々調べて得られた情報の少なさに誰もが苦い顔をした。






「Aの様子は？」







「…私に伝染させたくないのか、ここ三日は宿を取っているようです」






「そうか…」







「なんとしても治療法を見つけろ、仲間の窮地だ」







福沢が皆に聞こえるようにそう伝えた。
皆も、彼女を治したいと思っている。






『貴女のようになったAを見るのは…中々こたえる』







福沢の記憶の中の雪は、お世辞にも体は丈夫ではなかった。
生まれつき病弱だった雪は、今のAのように弱っていることも多かったらしい。







『貴女の娘を死なせはしない』







今は亡き友人に、福沢はそう誓った。







「正直、そんなに心配されるほど酷くはないです」







「心配して見舞いに来たのに開口一番それかよ」







「隠れ家を探し出して借金取りみたいにインターホン連打したのは誰ですか」







マスクをし、うつさないように距離を取るAは
やたら高価そうな見舞い品の果物を持ってきた中也にジト目を向けた。







「手前が居留守使うからだろ」







だからって出るまでインターホン連打して少し開けた隙間に足を挟むのは如何なものか。
アンタはヤクザか、いや、マフィアだった。







「手前、花吐き病になったんだって？」







「…はい」







「噂でしか聞いたことなかったが…大丈夫なのかよ」







「割と平気です」







「まあ、あんだけ玄関で攻防戦出来たらな」







先程まで二人は、玄関で入れろ、入れない、入るぞ、入らないでくださいという攻防をしていた。
結果、根負けしたAが入れたのだが。







「兎に角、平気そうでなによりだ。
なんか治療法判ったら連絡してやるよ」








「ありがとうございます」








用が済んだのか、中也はさっさと隠れ家から出て行ってしまった。
扉が閉められた後、中也は「嘘ばっかだ」と呟く。
部屋中に漂っていた、花の香り。








「何処が平気なんだよ」







あれほどの花の香りをさせて、大丈夫だと？
中也はなにかを思考し、そして携帯をつないだ。

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