【文スト】この世界と番外編 その十二

花びらの病とは ［3zuki様リクエスト］ ページ20

(軽い花の嘔吐描写があります、ご注意ください)
それは、本当に突然のことだった。







「…Aさん？」







"あの夢"を見てから、朝から具合が良くなく心配そうにナオミに声をかけられた。
セーラー服姿のナオミは、心配そうにAの肩に触れる。
一瞬、その姿が"あの時の光景"に重なったが、あれはもう過去の話だと、自分に云い聞かせる。
大丈夫だと云おうとした。
だが、次の瞬間込み上げてきたのは凄まじい喉への異物感、吐き気だった。







「ッ、う…」







咄嗟に口を押さえ、オフィスを出る。
廊下を駆け抜け、トイレに飛び込んだ。
一番奥の個室に入り、込み上げてくる吐き気を吐き出す。
しばらく気持ちの悪いものを吐き出し、ゼェゼェと肩で息をした。
そして、なんとなく吐き出したものを見たAは、その目を見開いた。







「ッ、…え？」







そこには、真っ白い花びらが大量に落ちていた。
吐瀉物でも無く、花びらが。







「Aさん、大丈夫ですか？」







個室の扉の向こうで、ナオミが心配そうにノックをする。
だが、Aはそれどころではなかった。







「なんで…人体から植物が…」







震える唇から、ひらりと真っ白い花びらがこぼれ落ちた。







「…花吐き病？」







「あぁ、正式名称『嘔吐中枢花被性疾患』…通称、『花吐き病』」







カルテを持った与謝野が慎重な面持ちでそう答えた。
医務室は酷く静かで、まるで時が止まったかのようだ。
聞いたことも無ければ見たこともない病名だった。







「異国から入ってきたって噂の、珍しい病気さ。
なにが原因でなるのかは不明だが、患者はある日いきなり花を吐くようになる。
原因も不明なら治療方法も判らない。
噂じゃ異能が絡んでるらしいが、なにしろ報告数が少ないんだ」







まるで他人事のようだった。
まさかそんな病に自分がなるとは思ってもなかった。






「…人体への影響は」







「…死亡報告も何件かある」







与謝野が何処か悔しそうにつぶやいた。
治療法も無く、そして死亡報告もある。
嫌な条件しか揃っていない。






「兎に角、暫く仕事は休みな。
妾達が必ず治してやる、だから諦めないんだよ」







与謝野が安心させるように云ってくれた。
だが、それすらも何処か他人事のように聞こえてしまう。






『本当に治るのだろうか』







脳裏に焼きつく白い花びらが不吉な香りを漂わせた。

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