【文スト】この世界と番外編 その十二

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太宰が持ってきた絵を見た者は、ある人は口を押さえ、ある人は絶句し、ある人は口を引きつらせた。






「…なに？これ」







乱歩が禍々しいものを見るような目つきでそう聞いた。
暫く太宰の首を絞めていたAは心底悔しそうに唇を歪めた。







「…兎、です」







「…化け物じゃなくて？」







紙には、化け物のような形相の生き物が描かれていた。
牙は鋭く、目からは赤い液体を流している。







「なんで血ぃ流してんの？」







「目です」







「…え？これ本当にAが書いたの？」







信じられない、と云った風に聞かれたAは消え入るような声で「はい」と答えた。
暫く笑っていた太宰は荒い呼吸を繰り返しながら話し出した。







「ひぃ、あのですね、絵しりとりをしようと思いましてね…ひっ。
Aちゃんがあの子に好きな生き物を聞いたんですよ。
そしたら兎って云われて…それで…ぶふぉ」






小泉A、まさかの絵が下手説。
いや、下手というか危険な絵だった。







「兎同好会から訴えられそうな絵だな…」







「アンタこれやばいよ」







「ホラーゲームに出てくる不吉な絵みたい」







「…兎じゃない」







「凄いですね！」







これをみて子どもは大泣きしたのだ。
そりゃそうだ、目から血を流した化け物の絵を描かれてはそうなる。
散々批評されたAは絵をバン！と叩いて声を荒げる。






「私だって模写は出来ます！でもこういうのは苦手なんですよ！」







「それにしたって…ねぇ」







「あと太宰さん、あなた散々こけおろしてますけど貴方の絵も相当酷いですから！」







「酷い、芸術なのに」








「あ、この絵、どこかで見覚えあると思ったら、ドグラ・マグラ食らった時の精神に似てます」







「敦表でろ」







「すみません」







武道はもちろん、芸術面も習ったAだが、どうしても絵心だけは無かった。
そりゃあもう、悲しいほどに。







「…ちなみに、兎(？)の片隅にあるオレンジ色の刃物みたいなのは？」







「人参」






「…これは酷い」








「こんな人参あるんですね！」








賢治の言葉でAの心は完全に折られた。
鋼のメンタルは根元からポッキリやられた。







「Aちゃん、気にすることはない。誰にだって欠点はあ…ぶふっ」






二秒後、太宰がAに投げ飛ばされた。

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