【文スト】この世界と番外編 その九

＊ ページ31

ガッツポーズを決める中也。
ここが屋外で良かった、気を抜いてしまったら「しゃぁぁぁぁぁ！！」と叫んでいただろう。






「うっわぁ…小泉ってだけで下の名前云ってないのに」






小泉は珍しい苗字でもない。
だがこの目の色を見れば大抵の者は判るだろう。







「まあ、母さんの名前はAだけど」







「っしゃぁぁあ！！」








「うっわぁ…これ母さんに見せたい、太宰さんにも見せたら高く買ってくれるかな」







雪也が引き気味に珈琲の中に角砂糖を一つ落とした。
さっきまで疑っていたのが莫迦みたいな反応だ。







「つまりあれか？手前は俺とAとの子どもなんだなよっしゃよくやった未来の俺」







「まあ未来っていうか別の時間軸のアンタだけど…。
なんで母さんこの人選んだんだろう…あんなに美人なのにこんな凶悪なのに捕まるなんて…」







さりげなく父親を凶悪と表現する。
改めて雪也の顔を見ると、中也の面影の中に、たしかにAの面影が見えた。







「なぁ、未来のあいつどんな感じだ？詳しく聞かせろよ」






「今でも男性に云い寄られてるよ。
その度にアンタが騒ぐから母さんも苦労してる。
マフィアのアンタが探偵社で騒ぐと五月蝿いから、俺が地面にめり込ませてるけど」







「…手前、異能者か」







「こう見えても重力操作の異能者でーす」







雪也は何かを小さい声でつぶやく。
すると、近くにあったティーカップがふわりと浮かんだ。
中也の重力操作のように、触ってもいないのに、だ。





「声で操ってんのか…！」






「嘘！脳筋で息子にも母親渡そうとしないアンタが気づくなんて！！」






「手前ちょいちょい苛つくこと云ってくんなぁ！！」






「親子喧嘩で異能使ったアンタが云うか！」






「知るか！！」







「それで母さんに平手打ち食らってたくせに！…俺もだけど」







「…莫迦じゃねぇか」







雪也は「アンタよりは頭いいよ」とボソッと呟き、中也の拳をスッと避けた。







「しっかし…俺本当に背がアンタに似なくてよかった…」






「重力で縮めてやろうか」







「野蛮だなぁ、そこはバレないように日々少しずつ重力かけないと」







「えげつないな！！」







ニコニコと笑うその容赦のなさは間違いなくAのものだった。






「そう云えば俺が母さんのお腹にいること判った時、太宰さん膝から崩れ落ちたんだけど」






「なんだそれ詳しく」

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