【文スト】この世界と番外編 その九

＊ ページ13

「いきなりなにするのさ。折角死ねそうだったのに」





ブーブー文句を垂れる少年は、間違いなく太宰だった。
だがまだ幼いせいか、首に巻く縄の強度が弱い。





「…これ、もうちょっとこうすると強度が増す」






「…おぉ」







太宰に教わった、『首を吊っても人を縛り上げてもいい編み方』で編むと太宰少年から感嘆の声が漏れた。
この編み方はどんな屈強な男でも縛り上げて引きずっても千切れないので重宝している。






「すごいなぁ、これなら逝けそう。
僕が死んだら森さん困るだろうなぁ、うふふふふ…」






どうやら性格がひん曲がっているのは昔からのようだ。






『あ、そろそろ制限時間』







目の前で目を輝かせる少年の手に握られているのが縄でさえ無ければ普通の光景なのだが。
予想だが、おそらくこの時期には既に彼はマフィア入りをしているのだろう。
面倒ごとになる前に帰ろうと思っていると。







「太宰君、勝手に居なくならないでおくれ」






白衣を着た男が一人の子供を連れて現れた。
太宰はゲッと嫌そうな顔をする。
すると、男はAの顔を見て、唖然とした。
だがAの視線の先は彼ではなく、彼が連れた子供に向けられた。







「久作…」







その場の雰囲気が変わった瞬間、しまったと口を押さえた。
Qの存在は、他人である自分が知っていてはいけないのに。
白衣の男は勿論、太宰も黒い目でこちらを見つめている。







「…お話、いいかな？」







白衣の男、森の声にAの一歩後ずさる。
この距離なら逃げられる、そう思い、逃げようとした瞬間、右手に誰かの手が触れた。
視線を落とすと、ニッコリと笑う太宰が。







『あ、無効化』







瞬間、冷や汗が出た。
異能が無効化された、ということは戻る術が無くなったということ。
太宰の手を振り払い、後ずさる。
これは、本当にまずいのでは？







「お話、聞かせて？」







子どもらしく微笑む太宰に、唇が震えた。
これは、逃げないといけないやつだ。
だが既に周りにはマフィアの構成員がいて、逃げ切れることは不可能に近い。
だが捕まるのは嫌だ。
拳銃を確認し、逃げようとした瞬間、







「ッいっ」







「きゃっ」







ゴツンという音と共に現れた雪とぶつかった。
痛々しい音を響かせ、一瞬で消えた二人に辺りは騒然とし、
元の世界に戻ったAは同じ背丈故に顔面をぶつけた雪と共に暫く顔を押さえて倒れていたらしい。

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