【文スト】この世界と番外編 その九

＊ ページ7

夜の路地で、ひとりの男は歩いていた。
だが、ピタリと立ち止まると耐えきれないといったように笑い出した。






「ふっ…ははは！！」







数日前、異能をかけたあの美しい少女は今頃どうしているだろうか。
仲間に忘れられ、自ら命でも絶っただろうか。
不気味な笑いをこぼす男はふと、背後に気配を感じた。






「すみません」







後ろから綺麗な声が聞こえてきた。
次のターゲットはこいつにしようと、振り向いた瞬間。






「ぅぐ！？」







「みぃつけた」






鼻の骨が折れる感覚と共に、体が吹っ飛ばされた。
もがく男を見下ろすのは、紫色の目をした少女。
拳についた血を忌々しげに拭う。





「鼻が折れたくらいで泣くなよ情けない。
その程度、他の人が受けた痛みに比べたら安いものでしょう」





「お、おはえは…！」





「そんな簡単に死ぬか。まったく、久しぶりにここまで頭に来た」






Aは男の前髪を掴むと、グッと顔を引き寄せて云った。





「例え忘れられても、絶対に思い出させる、それだけ」





恐ろしく冷たい瞳に男は引きつった悲鳴をあげた。
すると、Aは男の髪を掴んだまま歩き出す。





「ひっ、いた…禿げる！」






「禿げろ。それに探偵社はすぐ近くだから耐えろ」






男一人を軽々と引っ張り、Aは通行人の目も気にせず、探偵社の扉を開けた。
当然、皆はギョッとしていた。
目当ての人はソファーで寝ており、更にイラッとした。






「仕事ですよ、ナマケモノ」







「ぐぬぅ！？」







男の体をぶん投げて太宰に落とす。
異能が解除され、皆の記憶が戻る。
そして訪れる、気まずい空気。






「…えっとAちゃん」







「なにか」







「…ごめんね？」







謝罪する太宰に、Aはほっとすると同時にこう呟く。






「寂しくなんてなかったですから」






そう云って、ツンとそっぽを向くと社から出て行ってしまった。
その反応に謝り倒す者や、慌てて追いかける者、そしてナオミのように「ツンデレですわ」という者、色々だった。





「…ねぇ、私いつまでこの人とくっついてないといけないの」






その後、しばらく探偵社員の仕事は恐ろしく機嫌の悪いAの機嫌をとることだった。
本人は気にしていないと云うのだがペンを苛立って三本折った為、急遽機嫌取りの会議が開かれた。
忘れられなくて良かった、そうAは思って、またペンを折ってしまった。

ポートマフィアの小泉 ［桜様リクエスト］→←＊

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