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今日という日は昔から何をしても無気力になる日だった。
だから仕事も休んで、誰とも会わなかった。
この忌むべき日を一人で過ごし、明日からまた生きていく。
ただ、それだけ。
濡れ鼠のようにずぶ濡れで、もう誰も居ない探偵社の扉を開ける。






パァン!






いきなりの破裂音と飛び出す色とりどりのテープにAは「は?」と素っ頓狂な声を出す。
目の前には帰ったはずの社員達が居て、何故か皆手にはクラッカーを持っている。






「お誕生日おめでとうー!!」







久しく聞いていなかった台詞にAは呆然とした。
スタスタと歩み寄ってきたナオミが肩に『本日の主役』と書かれたタスキをかけた。






「…あれ、今日だよね、誕生日」






「そう、ですけど…なんで…」






太宰なら判るはずだ、今日という日が誕生日であると同時に、母が死んだ日だということが。
それなのに、何故。






「今日は君が生まれた日だろう?なら皆祝いたいと思うさ」







その言葉に、え、と仲間の顔を見た。






「名探偵たるこの僕が計画したんだ。流石に驚いたよね」






「Aさん、プレゼント兄様と選びましたの。
兄様ったら随分悩んでて…」







「だってナオミが変なの買おうとして…!ちょ、やめて首筋撫でないで!!」






「えっと、僕もこういうの慣れてないけど…お誕生日おめでとう!」






「どうして黙ってたの、貴女は本当にそういうところが鈍い…おめでとう」






「Aアンタもうちょい気ぃ抜きな。そんな苦しい顔して誕生日迎えるんじゃないよ」






「乱歩さんが教えてくれなければ知らなかったぞ。
こういうのはキチンと報告をだな!!」






「Aさん、マフィアの方達からも色々届いてますよ!
えっと、これは…チビ帽子さんから!!」







皆んな純粋に祝ってくれている。
マフィアからも数名知り合いから贈られてきていた。
胸の奥がぎゅっと、優しく締め付けられた。






「彼女は娘が生まれた日を祝福しているだろう」






福沢の言葉にかつての父の言葉を思い出した。
祝わなくていいと伝えた時、







『それでも、お前が生まれてくれた日だろう?』







目が熱くなった。
気づけば柄にもなくボロボロ泣き始めたAに皆はギョッとする。
人前で泣くことなんてしたくないのに、
生きてていいと、祝福されていいと証明された気がして止まらなかった。
生まれてよかったと、思えた気がした。

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もこすけ(プロフ) - nino=sakuさん» コメントありがとうございます。怪談、いかがでしたか。実際に遭遇したくはないですね…。 (2019年3月26日 18時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
nino=saku(プロフ) - 主人公の怪談夜中に読んでたので普通に怖かったですw (2019年3月26日 0時) (レス) id: 2561bedadd (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 凛さん» コメントありがとうございます。わざわざ有難いお言葉感謝します。もう少し続きますので、お楽しみに。 (2018年12月7日 23時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
- リクエスト受けてくださって本当にありがとうございます!作品とても楽しみです! (2018年12月7日 14時) (レス) id: 9fddac5d14 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - みぃちゃん,mさん» コメントありがとうございます。小泉のボーカル、見たいてますね。これから登場しますので、お楽しみに。 (2018年12月7日 10時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年10月28日 18時

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