【文スト】この世界と番外編 その七

＊ ページ21

「全く、あの阿呆、これが任務であれば手脚を捥いでおったぞ」






幼女らしさを残しつつ、狂犬の顔をした��子の話に相槌をうつ。
猟犬部隊、大倉��子に礼をすると云われ連れてこられたのは近くのカフェ。
そこで茶を奢ってもらっているのだが、顔がバレる不安からか先程から指先が冷たくなるばかりである。






「…いい加減そのフードを取ったらどうじゃ。暑苦しいぞ」






何も話そうとしないAに焦れたのか��子がそう云った。
だがAは端的に返した。







「あまり人に見せるような顔をしてませんので」






「ほう」







まるで傷でもあるような云い方だが、本音は顔を見せれば命懸けの鬼ごっこなので嫌、ということだ。






『適当に切り上げて帰ろう』







帰れたらの話だが、そう考えると胃痛が酷くなった。
飲みきってしまおうと、珈琲のカップを持ち上げると再び��子が口を開いた。






「なにを恥じる必要があるのかのう。
むしろ美しいと云われるのに、何故隠す？」






��子がニヤリと笑った。
Aは紫の目をフードの下で見開くと、カップをテーブルに置いた。






「…なんの話でしょう」





「ほう、まだしらを切るか。
目を見るまで気づかなかったが…噂通りの美しさじゃ」





��子は少女の、紫の目を見て確信した。
惹きつけるような美しさと危うさを持ったあの目は噂通りだった。





「のう、魔女の娘」






血荊の女王は魔女の娘にそう問いかけた。
彼女はフードの下で赤い唇を一瞬噛む。





「黙秘は肯定と見なすぞ」






��子の楽しそうな、それでいて何処か狂気じみた声を聞きながらAは再び唇を噛む。
この猟犬相手にどう逃げるか、そう考えていると、






「ん？��子君か？」







聞こえてきた声に��子は勢いよく振り向く。
そして、そこにいた人物にこれでもかと甘えた声を出した。






「隊長！休日にお会いできるとは��子、この上ない幸せでございます！！」







現れたのは、猟犬部隊の隊長、福地だった。
彼は��子の周りを見渡す。






「��子君、今日は一人か？」







「…いえ、どうやら逃げられたようです」







��子がAの方を向いた時には既にあの少女の姿はなかった。
あの一瞬で逃げ出したらしい、福地は��子君が珍しい、と笑う。







「また会えますよ隊長」






��子はそう云うと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
机の上で、飲みかけの珈琲が震えた気がした。

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