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巳之吉との生活が続くこと更に数ヶ月。
いよいよ警察官への切符が手に入る、という時にある電話がかかってきた。
それを取った彼の顔は暗く、そして話をする声は低い。







「…どなたですか」







電話が終わり、辛そうな表情の巳之吉に問う。
雪にはもう判っていた、あの相手が彼の親だということが。






「…両親が、帰って来いと。
くだらない事を云ってないで小泉の人間としてすべき事をしろと」







そう云って巳之吉は何度も書き込みをした本を撫でる。
巳之吉の瞳には絶望と諦めの色。
彼の夢と矜持が壊れる音がする。







『気に入らない、何故?何故こんなに不快になる?
以前は気にならなかった、誰が壊れようと、なにも』







多くの人を手にかけ、壊れる音を聴いてきたのに
彼の絶望の音は酷く耳障りだった。
見たくない、聴きたくない、この絶望は、気に入らない。







「…貴方の邪魔をする者が居なくなればいい」







気づけば、そう口にしていた。
巳之吉は訳が判らないと云った表情で雪を見つめている。
それでも雪は身を乗り出すようにして巳之吉に迫る。







「貴方の夢を壊す者が居なくなれば、貴方は貴方で居られる。
鳥籠の中で飼われる必要も、自分の運命を恨む必要も全て無くなる」







「雪…?」







「巳之吉さん、そう思うでしょう?
ならそう云えばいい、願いを口にすれば…"叶えてあげられる"」







私が、消してあげる。
貴方の願いを代わりに叶えてあげる。
この力は貴方の運命を変えることができる。







「ねぇ、願って?私に云って?
あんな人達居なくなればいいと、消えてしまえばいいと」






だって私は魔女だから消せる。
いつもならこんなことしない、誰かの為に力を使ったりしない。
でも、"貴方"は特別。







「ねぇ…お願い」







だから、願って、早く。
血が滲むほど握りしめた手に、巳之吉の手が触れた。
彼は、儚げに笑っていた。







「…確かに、そう思った日もある、彼らが居なければいいと。
だが恨むべきは親ではない…俺の運命だ」







嗚呼、なんて真っ直ぐな目をした人なのだろう。







「俺は俺の運命を受け入れる。
他者を傷つけ得たものは結局最後には奪われるものだ」






なんて、残酷なことを云うのか。
他者から奪ってきた雪にとって、巳之吉は眩しすぎた。







「ありがとう雪。…君は優しいな」








その言葉が、深く突き刺さった。

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もこすけ(プロフ) - ReiLeiさん» コメントありがとうございます。そんなに読んでくださりましたか。とても嬉しいです。ありがとうございます。 (2018年12月26日 20時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ReiLei(プロフ) - 3週目するくらい面白い。 (2018年12月26日 17時) (レス) id: e65e94b2de (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 朧月さん» ありがとうございます。これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。 (2018年10月28日 15時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
朧月(プロフ) - リクエストありがとうございました!これからも更新を楽しみに待っています\(^^)/ (2018年10月28日 15時) (レス) id: 061be1d3a8 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 嬉しいお言葉ありがとうございます。こちらもリクエストをいただき、こうして書けることがとても楽しいです。皆様のおかげです。これからもよろしくお願いします。頑張ります。 (2018年10月27日 16時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年9月29日 19時

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