【文スト】この世界と番外編 その五

＊ ページ40

「…元マフィア最年少幹部？」







告げられた大層な肩書きに思わず復唱すると彼は頷いた。
資料に写っている男はとてもそんな風には見えず、首をかしげる。







「その幹部の…捕縛ですか」







「えぇ、証拠が見つかったので逮捕に踏み切るそうですよ」







どうぞ、とコーヒーを渡され、礼を云って受け取る。
彼、条野は向かいのソファに腰掛けると資料をじっと見つめるAの方を向いた。







「…この人」







「お知り合いですか？」








「私に友人が少ないことを知っての発言ですか条野さん」







「犬猫にも嫌われますもんね」








「傷口抉らないでください」








条野は楽しそうにふふふと笑った。
そんな先輩にジト目を向けつつ、資料に目を落とす。
写っているのは若い蓬髪の男。
見目麗しい彼の犯罪歴は決して軽くはなく、むしろ鉛より重いものだった。







「太宰、治…」







この名前は知っている。
でも、何故だろう。
"何処かで会った気がするのは"何故なのか。








『いや、気のせいだな』








ゴクリとコーヒーを飲み込み、資料を机に置いた。
相手が誰であろうとすべきことをする。
それが…猟犬たる自分の存在意義なのだから。








「元マフィア幹部太宰治、共謀殺人一三八件恐喝三一二詐欺その他六二五件の犯罪容疑で逮捕する」







条野の言葉と同時にAは太宰の手に手錠をかけた。
彼の表情は一瞬驚きに歪むがすぐにいつもの澄ました顔になる。






「おや、随分綺麗な猟犬だねぇ。一瞬白雪姫かと思ったよ」







太宰は条野の傍にいる少女を見てニコリと笑う。
もし妙な動きをすればいつでも動けるようにAは彼を睨みつけた。







「美しい…是非私と心中してくれたまえ」








「…うわ」








「わぉ凄い目するね君」








「Aさん離れなさい、この男は危険です」








「おやおやつれないなぁ」








ヘラヘラ笑う男に、苛立ち同時に何故か懐かしさを覚えた。
何故だろう、この男とは初対面のはずなのに。
…まるで何処かで会ったことがあるような懐かしさがある。
でも、関係ない。








「太宰治、貴方を逮捕する」








猟犬である少女は、紫の瞳で太宰を見据える。
そこに、仲間という意識はなかった。








「…っていう夢を見たんだ」








「ゾッとするのでやめてもらえますか」








「やめて寝起きに水ぶっかけようとしないで謝るから！！」

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