【文スト】この世界と番外編 その四

小泉と三毛猫さん ［もっさん様リクエスト］ ページ48

「はぁぁぁ…疲れた…」







一人で向かった依頼が漸く終わり、河川敷で深いため息をつく。
内容は別に大変ではなかった。
のだが、依頼に向かった家にいたペットに問題があった。







『ワン！ワン！！』








『キャンキャン！！』







『…』








『ご、ごめんなさいね、いつもはこんなに吠える子達じゃないのに…』







『いえ、お気になさらず』







『ワンワン！ワオーン！！』







『キャインキャイン！！』







『こら！やめなさい！本当にごめんなさいねぇ』







『オキニナサラズ』







ペットのトイプードルとチワワに死ぬほど吠えられた。
依頼人の議員夫人も苦笑いするほど、激しく。
そのせいでかなり疲れた。







「知ってたけど…いや、知ってたよ。
生き物に嫌われてる事くらい知ってる」








だからってあれはないだろう。
顔の前で指を組み、今までの思い出を頭に浮かべる。
三歳、烏にめちゃくちゃ鳴かれて追いかけ回される。
五歳、近所の猫に嫌われまくる。
九歳、何故か黒猫にだけ好かれる事に気づく。
十一歳…そこまで思い出してやめた。
あまりに悲しすぎる過去に泣きたくなってくる。







「黒猫にだけ好かれるとか…私は魔女か！！」







いや、魔女だった、母親が。
くだらねぇ、だから黒猫か、ふざけんなとすら思う。







「はぁ…なにがそんなに怖いんだか…」








顔か、この気が強いとすら云われる顔か。
それとも雰囲気か、いや、そうだったとしたらもう泣くしかない。
泣かないけど、意地でも泣かないけど。







「はぁぁぁ…社に戻ろ…う…」







立ち上がろうとした時、足元に温かく柔らかな感触がして思わず動きが止まった。
なんだと思い、目を落として見るとそこには一匹の…三毛猫。
三毛猫はにゃおんと鳴いてこちらを見上げた。







「猫だ…」








擦り寄ってきた三毛猫の丸い目を見てつい口元が綻ぶ。
今まで黒猫には擦り寄られた事はあったが三毛猫の経験はない。
恐る恐る手を伸ばすと猫は逃げず、体に触れることができた。








「おぉ…！」








つい感嘆の声がもれた。
生き物は好きだが嫌われる事十八年。
未だかつてなかった体験に、猫の体を撫でた。
猫は心地良さそうに目を細め、にゃあと鳴く。









「可愛い…」









普段はしないような柔らかい顔で猫を撫でる。
誰にも見られてないから、と油断をしたことがのちの命取りとなるとも知らずに。

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