【文スト】この世界と番外編 その四

＊ ページ34

眼が覚めると縛られ、冷たい床に転がっていた。
記憶は気分転換に外に出て、後ろから殴られたのを最後に途切れている。



「…個人的に私も恨みがありましてね、目障りな探偵屋が一人いなくなるだけでも結構ですよ…」



「どうでもいいわ、どんな手を使ったのか判らないけど、早く私達を元のところに帰してちょうだい」



薄暗い部屋の中、誰かの話し声が聞こえた。
義母が黒い服の男と話している。
恐らく自分はこいつらに連れ去られたのだろう。



『もしかして、彼奴がこの事件の…』



薄目を開け、聞き耳を立てる。



「…まあいいわ。あの子が戻ればそれで」



「えぇ、私も探偵社に復讐ができますから」



ズキズキと痛む頭で、そう云うことかと納得する。
探偵社に恨みを持つ者と、欲深い夫婦の利害が一致し手を組んだのだ。
そうでないならあんな夫婦、この街では三日と待たずに骸となる。



「…目が覚めたのね」



冷たい女の目がこちらを向く。
かつてと変わらない、本当に冷たい目だった。
Aは転がされた状態で義母を鋭く睨む。



「…貴女は私達の云う事を聞いていればいいのよ」



同時刻、探偵社は騒めきに包まれていた。
Aが居ない、それも道に携帯を残して消えた。
間違いなく第三者が彼女を攫った、と考えるのが妥当だった。



「…心当たりはいくつもあるが、一番あり得るのはあの人達だね」



そこらから恨みを買う探偵社は襲撃拉致はそれほど珍しくない。
だが、昨日の今日で考えればあの夫婦の仕業だと思うのは普通だった。



「Aさん…大丈夫でしょうか…」



「あの子は気が強いからね、そう簡単に負けたりしないさ」



心配そうに俯くナオミに太宰は落ち着いた声色で返す。
だが内心彼も焦っていた。
もし、彼女が元の世界に戻ってしまったら…。
いや、その前に連れ戻す、なにがあっても。



「監視カメラの映像が届いたぞ。
どうやら犯人はあの夫婦で間違いないようだ」



監視カメラには一瞬、あの夫婦が写っていた。
そして、Aを連れ去る黒服の男も。



「こいつは…」



「この事件の犯人、異能者だよ」



乱歩の言葉に映像に視線が集まる。
この神隠し事件の犯人、空間を操る異能者。



「へぇ…面白そうですね」



扉を隔てた廊下で、盗み聞きをしていた少女は口元に手を当て、不敵に微笑んだ。

＊→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す