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ページ24

「はい」






「なにこれ」







「蟹炒飯」







湯気を立たせる炒飯を見て、太宰はキョトンとした。
社員寮に戻り、冷蔵庫を確認したらまともなものがなく、太宰の酒のつまみの蟹缶を拝借した。







「なんで?」








「お腹すいてるはず。毒なんて入れてないから食べろ」







「…お姉さん料理できるんだね、意外」








「減らず口…」








ジト目を向けつつ見ていると、警戒しつつパクリと炒飯を食べた。
そして目を丸くさせる。






「美味しい」







顔をふにゃりと綻ばせた。
その顔が年相応に見えて、同じように目を丸くする。







「それは…良かった」








使った食器を拭き終わり、太宰の向かいに座る。
小さい口で食べる姿は変な話、子どもらしいと思ってしまった。







「一つ、聞いていい?」







「なに?」








「…なんで死にたいの?」








ずっと気になっていたことを聞いた。
大人の彼に聞いてもはぐらかされるであろうことを。
子どもの今でもこの世界から逃げたいと思うその意味を。








「なんでって…お姉さんはそう思わないの?」








「私?」








「だってつまらないじゃないか。
判り切ったパズルを解くように、同じことの繰り返し。
一度始まったら止まらない林檎の酸化みたいに…。
僕はこんな世界に長く居る意味の方が理解できないね」







ほんの僅かだが理解できる気がした。
自分が理解者がいない世界で生きるのは不可能だと思ったように、
彼はつまらない世界に三行半を突きつけたいのだ。








「お姉さんは、どう思う?こんな世界、居ても意味はないと思わない?」







「私は…」









闇を切り取ったような太宰の瞳に自分が映る。
全てを諦めた大人のようなのに、答えを求める子どものような、そんな目。







「そんなの、意味なんてない」








「…」








「でも…だからって死ぬのは嫌だよ、私は」








「…え」








「死んだらそこで終わりだし、その先を見ることはできない。
未完成の小説みたいな人生をそこで止めるのは面白くない」








だから自分は生きた。
救われるその日まで歯を食いしばって。








「林檎みたいに酸化したのならそこを切り取れば新しいものが見えてくる。
…少なくとも私はそう思うから」









この時、太宰がどんな顔をしていたのかは見なかった。
ただ、一瞬息を飲むような音が、確かに聞こえた。

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もこすけ(プロフ) - 有栖さん» リクエスト承りました。嬉しいお言葉ありがとうございます。 (2018年8月13日 6時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
有栖(プロフ) - リクエストです。薬か何かで小泉ちゃんが5歳くらいになって、武装探偵社で天然笑顔や、寂しがり屋を披露して太宰さんの事をお兄ちゃんって呼ぶって感じのお願いします!!!!!多めですみません!この作品めっさ好きです! (2018年8月12日 23時) (レス) id: e65e94b2de (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ゼロレールさん» リクエスト承りました。わざわざコメントありがとうございます。感謝します。 (2018年8月6日 22時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロレール(プロフ) - リクエストいいでしょうか?以前にやった幼い太宰さんの逆トリと同じで、幼い中也さんの逆トリお願いします。後、前回コメントができず、すみませんでした。リクエストは無理でしたらスルーでも構いません。よければ宜しくお願い致します。 (2018年8月6日 22時) (レス) id: 3e587b9082 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 千晴さん» こちらこそありがとうございます。 (2018年8月6日 17時) (レス) id: 4a59fda111 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年7月22日 21時

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