【文スト】この世界と番外編 その四

＊ ページ32

彼奴らが、散々自分を利用してきた義理の両親が現れた。
それだけで云いようのない危機感に襲われた。



「まったく…この数ヶ月なにをしていたの？
貴女の身に何かあったらどうするのよ」



「そうだぞ、心配したんだからな」



「…嘘」



そう云うと義母の目元がピクリと動く。
この人達は本当の意味で自分を心配したりなんかしない。



「貴方達は跡取りがいなくなるのが嫌なだけでしょう。
私がどうなろうと知ったことじゃない。…違う？」



「…貴女は跡取りになる為に引き取られたのだから当たり前でしょう。
子どもみたいなこと云わないで頂戴」



冷たい物云い。
すっかり忘れていたが、彼女らはこういう人種なのだ。
結果が全て、感情なんて関係ない。
驚くほど冷徹な権力の亡者。



「…失礼、少しいいですか？」



「なんですか、貴方は」



「いえ、私は彼女の上司でして」



何も云えなくなっていたAを見て、太宰が割り込んできた。
国木田達も何事かと近づいてくる。



「先程から彼女を物のように扱ってますがもう少し彼女の事を考えてやってもよいのでは？」



「他人に口出しされる筋はありません。この子はその為だけに引き取った子。
どう扱おうが私達の勝手です」



「オイ、帰るぞ」



また彼処に帰る？
あの地獄みたいなところに？
冗談じゃない、気づけばハッと笑っていた。



「帰る？私の居場所は貴方達のところじゃない」



「…くだらないこと云ってないで戻りなさい」



「くだらないこと、か…おば様はいつもそう。
私の思いなんて何も考えない、それで私が従うとでも？」



そこまで云うと義母はハァ、とため息をついた。
まるで大人が子どもを見下すように。
いつもこうだ、彼女はAが意見するのを嫌う。
そして、恐らくA自身も大嫌いなのだ。



「分家で駆け落ちした男の娘なだけあるわね。
育ててもらった恩も忘れていなくなった挙げ句口答え。
貴方のお友達の品格も素敵だわ。
…本当、親の顔が見てみたいわ」



侮蔑がこもった眼差しに体が冷えていくのを感じた。
こいつらは父を、尊敬する父を馬鹿にした。
そして自分の仲間すらも。



「ほら、馬鹿なこと云ってないで行くわよ」



近づいてきた義母。
駄目だ、これ以上は本当に。
溜まっていた怒りに身を任せ、右手を振り上げた瞬間、



「馬鹿なのは貴方達でしょう」



太宰の冷ややかな声が響いた。

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