【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました

七話 ［身の上話は憂鬱になる］ ページ9

「んぐむぬ？」



「だから仕事だ！俺と太宰は軍警察の依頼で猛獣退治を」



「君達なんで会話できてるの？」



「ちゃんと飲み込んでから話して」



というかよくそれだけ食えるな。
自分は別に少食というわけではないがあれだけの量は無理だ。



「はー食った！もう茶漬けは十年は見たくない！」



「お前…」



「結局Aちゃんはなにも食べなかったね」



「他人の金で食事するのは気が引けます」



というか食事自体にあまりいい思い出がないのも原因の一つか。
少女の瞳に影がさす。
それを太宰は見逃さなかった。



「いやほんっとーに助かりました！
孤児院を追い出され横浜に出てきたから食べるものも寝るところもなく…あわや斃死かと」



「ふうん、君、施設の出かい」



「出というか…追い出されたのです。経営不振だとか事業縮小だとかで」



「それは薄情な施設があったものだね」



「…施設、ね…」



ふむ、と考えるように水を飲む。
孤児院が経営の関係でたった一人の少年を追い出すものか？



「…ちゃん、Aちゃん」



「あ、はい」



「君は？」



「はい？」



「君は何処から来たの？」



まずい。
僅かに動揺でグラスが揺れる。



『階段から落ちて目が覚めたら川辺にいましたなんて行ったら病院行きだ』



焦りを知られないようにゆっくりとグラスを置いた。
欺くのは慣れている。
あの家で嫌という程やってきた。



「私は両親共に死去していて、今は親戚の家でお世話になってます」



これは嘘ではない。
両親が居ないのも親戚の家にいるのも。



「ふぅん…何故ヨコハマに？」



「それは…」



上手く誤魔化せたと思ったのに。



『油断ならないどころか要注意人物じゃないか』



「おい太宰、俺たちは恵まれぬ子供に慈悲を垂れる篤志家じゃない、仕事に戻るぞ」



良いタイミングの切り替えにAは内心ホッとする。



「お二人は…何の仕事を？」



「なァに…探偵さ」



敦は口をぽかんと開け、Aは眉間に皺を寄せる。
探偵、珍しい職業だ。



「探偵と云っても猫探しや不貞調査ではない」



そのとき、国木田の腰からあるものが見えた。



「斬った張ったの荒事が領分だ」



「あれ、本物だ」



それは普通なら絶対に見ることのない、拳銃。



「異能力集団『武装探偵社』を知らんか？」

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