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四十一話 [本の城での遭遇] ページ43

常に人の声がこだまするヨコハマの一角。
喧騒から切り取られ、心地よい静けさと本の香りが漂う中、少女はパタンと本を閉じた。



「低身長…帽子…」



手に取っていた本を棚に戻す。



「史実の中原中也の特徴…」



あの男は中原中也と名乗った。
そう、文豪の中原中也の名だった。
それが何を意味するのか。



「彼も異能力者である可能性がある、ということ」



この世界で文豪の名を持つ者は異能を持っていた。
ということは彼も異能力者か?
そうは見えなかったが…、



『異能力者か…』



マフィアすら存在するヨコハマ。
そして異能力が存在する世界。



『予想以上に複雑な世界だ』



本棚から一冊、本を引き抜く。
古ぼけた本の表紙をめくり、文字に目を通す。



「やっぱり無いか…」



彼女が目を通しているのは文豪についての本。
文字の偉人たちが載っている、はずの本。



「太宰治も国木田独歩も中島敦も中原中也もない」



誰もが知ってるはずの文豪の名は一文字も無かった。
代わりに見たこともない名が並んでいるだけ。



「当然、作品も無いか」



これが彼女の目的。図書館に来た理由。
この世界の事を知るために、
そして文豪たちを知るために此処に来た。



「文豪の名が何一つない。作品もない」



名前がない文豪はこの世界にいるのだろうか?
作品は異能力になっているのだろうか。



「疑問が尽きない…幸せなことだ」



本を閉じ、棚に戻す。
どれだけ探しても結果は同じだった。



「この世界には知らないことが多すぎる…」



知らなくてはいけない。
この世界で生きていくために。
知を武器にして生きなくては。
ヨコハマの歴史についての本はもう読んだ。
次は世界に目を向けてみよう、
そう思い世界のことが載っている本を探す。



「…あれにしよう」



分厚い一冊の本に手を伸ばす。
その時、同じように本に手を伸ばした手とぶつかった。



「あ、すみませ…」



振り返る前に気付くべきだった。
その手に、包帯が巻かれていたことに。



「はぁい」



女ウケの良さそうな優しげな笑みの包帯を巻いた秀麗な男。
喉がヒュッ、と変な音をたてた。
男は微笑み、唖然とする少女の耳に唇を近づけた。
耳元で艶っぽく囁かれる。



「みぃつけた」



次の瞬間、図書館にうら若き乙女の絶叫が響き渡った。

四十二話 [図書館ではお静かに]→←四十話 [中原中也という男]



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太宰の包帯希望者 - シリアスううううう!めっちゃ好みです!更新頑張ってください (2月5日 22時) (レス) @page21 id: efd9a7d1a1 (このIDを非表示/違反報告)
条野さんの鈴飾り食べたい - ネタが思いつかないので申し訳ないのですがこちらの『この世界で生きるのは不可能という結論が出ました』の小泉ちゃんとコラボさせて貰っても宜しいでしょうか?誠に勝手で申し訳ございません。 (2022年12月17日 11時) (レス) id: 36ec43f1b9 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 碧さん» ご指摘ありがとうございます。実はあえて意味がおかしい英語にしています。その話自体がギャグのような内容なので、正しい英文より、日本語に直すと面白い英文の方が良いかと思い、あえて間違った内容にしております。 (2021年12月14日 7時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 二十三話太宰の中のドラムになってませんか? (2021年12月12日 18時) (レス) @page25 id: 6588339009 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ルチアーノさん» ご指摘ありがとうございます。直しておきます。 (2021年3月23日 20時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年3月11日 14時

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