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三十四話 [帽子男と少女] ページ36

その日、彼は不運としか言いようのない事態に見舞われていた。
西方の小競り合いを予定よりも少し早く鎮圧し、
半年ぶりにヨコハマに帰ってきた日、面倒にも刺客に襲われた。
刺客自体は大したことなく、路地裏で即返り討ちにしたのだが
そこからが彼の不運の始まりだった。



「チッ…」



苛立ちを抑えきれず舌打ちをする。
路地の一角で目を潜め、敵が消えるのを待つ。



「あーっ…うざってェ…」



刺客を返り討ちにした時、その場に偶然敵組織の構成員がいたのだ。
本来なら即殺してもいい相手。
しかしそれが出来ない理由があった。
その組織は近々潰す予定で、
その前に騒ぎを起こすのは上から禁止されていたのだ。
だからこうして彼は身を潜めている。
何処からか男達の声が聞こえた。



「ここに居る筈だ!なんとしても見つけて殺せ!」



「奴は…ポートマフィアの幹部だ!ここで殺せば後々有利に…」



男達の言葉に彼は再び舌打ちをした。
帽子を深く被り直し、冷たい壁にもたれかかる。



「どいつもこいつも…マフィア舐めてんのか」



癖のある赤茶色の髪、鋭くもあり何処か引き寄せられる青い眼、気高い獣のような雰囲気。
彼の名前は中原中也。
港湾都市ヨコハマの裏を支配するポートマフィアの幹部。



「あーあ、ついてねぇ」



早く帰れる予定がとんだ不運に襲われた。
ちまちま悪いことが続くのは一気に悪いことが来るよりも精神的にきつい。
かつての自分の相棒はとてつもなく嫌な事をして、
それが永遠に続くのだからタチが悪かった。



「クソ太宰思い出しちまった…最悪だ…」



頭の中であのムカつく顔をかき消していると、カツンと、足音が聞こえた。
反射的に身構える。



カツン、…カツン、カツン…



足音は時折止まりながら着実に中也に近づいてる。
あの男達か?
胸元に仕込んだナイフをいつでも取り出せるようにして、路地の先を睨みつける。



「…あ?」



その時、暗闇から人影が現れた。
その人物は中也を見つけると、小さく、居たとだけ呟いた。



「大丈夫でしたか?」



ここらじゃ珍しい真っ黒のセーラー服。
闇を切り取ったように黒い髪。
吸い込まれそうなほど深い紫色の瞳。
暗さとは対照的な白い肌。
闇を纏った少女がそこには居た。



「貴方…追われてたから」



これが彼、中原中也と少女、小泉Aの出会いである。

三十五話 [警戒する男は疑いを持つ]→←三十三話 [路地への案内は]



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太宰の包帯希望者 - シリアスううううう!めっちゃ好みです!更新頑張ってください (2月5日 22時) (レス) @page21 id: efd9a7d1a1 (このIDを非表示/違反報告)
条野さんの鈴飾り食べたい - ネタが思いつかないので申し訳ないのですがこちらの『この世界で生きるのは不可能という結論が出ました』の小泉ちゃんとコラボさせて貰っても宜しいでしょうか?誠に勝手で申し訳ございません。 (2022年12月17日 11時) (レス) id: 36ec43f1b9 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - 碧さん» ご指摘ありがとうございます。実はあえて意味がおかしい英語にしています。その話自体がギャグのような内容なので、正しい英文より、日本語に直すと面白い英文の方が良いかと思い、あえて間違った内容にしております。 (2021年12月14日 7時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 二十三話太宰の中のドラムになってませんか? (2021年12月12日 18時) (レス) @page25 id: 6588339009 (このIDを非表示/違反報告)
もこすけ(プロフ) - ルチアーノさん» ご指摘ありがとうございます。直しておきます。 (2021年3月23日 20時) (レス) id: 102f3088ed (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もこすけ | 作成日時:2018年3月11日 14時

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