【文スト】この世界で生きるのは不可能という結論が出ました

二十七話 ［犯人確保は手腕が試される］ ページ29

爆弾魔はAの説得に言葉を失った。
彼女の言葉は一つ一つが重くのしかかる。
普通の人間がそんなことを云っても響くどころか白々しく聞こえるだろう。



「生は試練でもあり、存在を示す手段となる」



後ろに回された彼女の右手が三本の指を作った。
太宰はそれに気づく。



「無意味な生など存在しない」



立てられていた三本の指のうち、一本が下される。
太宰が国木田にアイコンタクトを送る。



「貴方の生にも意味がある」



二本目の指が下される。
国木田が懐から手帳を取り出した。



「だから、死ぬのは最善策ではない」



三本目の指が下された。
瞬間、太宰が合図を送り、国木田が飛び出す。



「手帳の頁を消費うからムダ撃ちは厭なんだがな…！」



国木田が憎々しげに呟く。



「『独歩吟客』」



手帳に書き込まれる文字。
その頁を破き、目の前に掲げる。
青白い文字が頁を別のものに変える。



「手帳の頁に書いたものを生み出す能力か…」



現れた鉄線銃が爆弾魔のスイッチを弾いた。
手から消えたスイッチに爆弾魔は狼狽える。



「確保っ！」



云うが早いか、国木田が机を乗り上げて爆弾魔の確保に向かう。
が、それは無意味なものとなった。



「悪く思わないでね」



爆弾魔の体が宙に浮いた。
何故ならAが足払いをしたからだ。
支えを失った彼の体は床に落ちる。
そこを見逃さず、彼女は左手を捻り上げながら床に叩きつけた。



「はぁっ…はぁっ…できた…」



全体重で男の手を押さえる。
見事な技に国木田達が唖然としていると、視線で早く助けろと訴える。



「…これは凄い」



爆弾魔を押さえつける役を国木田に代わってもらい
彼女は制服の埃を叩き落としながら立ち上がる。



「見事だったよ、今のは？」



「…護身術の応用です」



「誰かに教わったのかい？」



「…父から」



手首をコキコキ鳴らしながら彼女は云った。
こんな処で教わったものが役に立つとは。



「敦、とりあえず良かっ…」



友人の方を向く。
その時、何故か彼は転んでいた。
床にぶつかる寸前のところだった。



「え」



「ぶッ！！」



痛々しい音と共に聞こえる電子音。
なんだあの音は。
血の気が引いていく。



「あ」



「あ」



「嘘」



彼の手の下にはスイッチ。
爆弾のタイマーが動き始めた。

二十八話 ［回る思考と覚悟］→←二十六話 ［説得とは難しいもの］

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す