短編集。

立花祐樹の苦悩。 ページ42

「あ、祐樹さん!」






小さめの奴が、目を輝かせると 同時に、此方へ駆けて来る。



それを、眼鏡の奴が 止めて、頭を叩く。



……結構、しっかり 叩いたな。



小さい奴に 同情しつつ、この道を歩く。家に帰るには ここを 通るしかないんだ、仕方ない。





「話しかけてどうすんだ、バカ武」


「何おっ! バカ杉!!」





……生意気だ、って 噂の、若武と上杉か。



同級生が話してたのを 思い出し、笑いが 込み上げてくる。



そういえば、彩とも 仲が良いんだっけ。





「こんばんは、祐樹さん」





漆黒の髪と瞳、そして 艶やかな笑み。



……黒木、か。



そう 呟けば、名前を覚えてるなんて 光栄です、と 返して来て。……こいつ、調子狂う。



思わず 顔を顰めると、黒木の後ろで 騒ぐ声が聞こえ始める。





「黒木! くっそ、先 越された……!!」


「落ち着け、バカ武」


「でも、祐樹さんだよ」


「男なら 皆、憧れるよね……」





……。



何処に 行っても、何をしても、こんな感じ。



遊ぶ時は、俺を知ってる人がいない 県外へ 行く事が多い。





自分を 過大評価しそうになって、怖いから。





褒められる度に、恐怖心を 感じる。



いつか 俺は、ナルシスト、という カッコ悪い奴に、なってしまうんじゃないか、って。



だから、騒ぐ奴らよりは、黒木みたいな奴と 仲良くしたい、と 思う。



後は……、眼鏡の奴も 冷静で、嫌いじゃない。



……瞳だけ、他の奴と 同じだな。



溜息を堪えて、当たり障りのない 話題を 振る事にする。





「彩の事、送ってくれたのか?」


「はいっ!!」





少し 上擦った声で、元気に返事する…… 若武、上杉、シャリの小塚。



謎に綺麗な 顔の奴は……、あぁ、美門か。



そんな4人に 微笑みながら、軽く 頷いてみせる黒木。



菫色の髪……、って 凄いな。そいつは、目を輝かせる 4人を、不思議そうに 眺めてる。



こいつも、彩の友だちか? 初めて見たけど。





彩も、何で 男とばかり、仲良くなっかな……。





色んな事に 不器用な、真面目過ぎる 妹の事を考えると、頭が痛くなる。



母親は、俺と彩を比較して ばかりで。



彩も、手の抜き方を 知らなそうだから、倒れてしまわないか、心配になる。



……そんな 彩が、唯一 心を開けるのが この6人、って 事か。





「そっか。いつも、ありがとな」





いつもは 言えないのに、感謝の言葉が 無意識に 口から溢れた。

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