短編集。

。 ページ11

「あー、七鬼クン行っちゃったぁ」


「七鬼クンじゃない可能性、忘れてるでしょ」


「その可能性の方が 高いよ。

　顔も年齢も フルネームもわからないし。しかも、七鬼クンの髪の毛が菫色、って噂じゃん」





ラジオで一緒になった人が「七鬼クンの髪すげぇ。菫色の髪 羨ましい」って、ツイッターで。



黒木のおかげで、
そのツイートは 一瞬しか出ていない。



珍しい名字に 菫色の髪、って情報まで加えられたら もう、七鬼忍しかいない。



あの時は 慌てたなぁ。





「前の人も違うって。夢見るのは やめよ」


「ん。美門クンは珍しいけど、小塚クンはそこまで珍しい名字じゃないし」


「あぁ！ そういえば……」





その後 3人は違う話で盛り上がって、近くのカフェに入った。



そして、僕たちは 溜息を吐く。





「これが、有名税かぁ」


「俺たちはマシだよ。
　変装なしで 道を歩けるんだから」


「ラジオの時、高宮さん 大変そうだったね」


「KAITO王子 大人気だからね」


「あの回、
　視聴率 いつもより良かったみたいだよ」


「さっすが、スーパーアイドル」





少し歩くと、
道路を挟んで反対側の道に 上杉と七鬼がいて。



美門がピースすると、安心したように 息を吐く。



僕たちが上手くいかなかったら、上杉と七鬼も巻き込まれてしまったのに。



それなのに、僕たちを信じて 待っていたんだ。



2人が歩き出したのを見て、美門が 話しかけてくる。





「黒木先生の お手並み拝見」





首を傾げる。



女たらし、対人関係のエキスパート、
なんて 異名を持つ、黒木の お手並み拝見。



誰に？





「アーヤ」





え、アーヤに？



美門は、唇の端を持ち上げて 笑っている。



黒木の声が 後ろから聞こえて。





「雪が止みませんね。」





これ……。


笑いを堪えてるから、知ってるんだ。美門も。





「そうだね。
　冬を感じられるから、私は 好きだけど」





黒木の 小さい溜息に、笑ってしまう。



アーヤには、通じないね。



美門は堪えてるけど、少ししたら 吹き出す。





「ふはっ」





あ、意外と 速かった。





「え、何で笑ってるの？」





不思議そうな顔の アーヤに、言ってしまいそうになる。



だけど 黒木が、言わなくていい、
って 瞳を、向けてくるから 言えなくて。



アーヤは、いつ 気づくかな。僕たちの想いに。




雪が止みませんね。




……貴方への想いが収まりません。





Fin.

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