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事務所に着いて私は尚大が居るであろう部屋へ走った。
早く日常へ戻りたかった。
あの子の顔を見て安心したかった。
なのに体が思うように動かなかった。
あの会見で相当疲れたのだろうか。
いや、でも上手くいったはずだ。
みんなで楽しく会見もできたはずなのに。
「尚大！お待たせ！」
私の光。
私の帰る場所。
やっと着いた。
私の父は小学生の頃に事故であの世へ旅だった。
悲しかったが母がいる………はずだった。
母は父をとても愛していた。
たぶん私より愛していたのだろう。
父が旅立ったあの日からどんどん弱ってしまい、
父と過ごした思い出の場所で1人で逝ってしまった。
一人ぼっちになった。
泣けもせず、塞ぎ込んでいたら当時まだ3歳だった尚大が私の元へ来て
「Aちゃん。だーすき！！なおとずーといっしょ！！
Aちゃんはなおといっしょにおうち、かえる！」
父にも母にも捨てられたような状態だった私はこの言葉に救われた。
こんな私にもずっと一緒と言ってくれる子がいるなんてと。
尚大を抱きしめながらワンワン泣いた。
多分、この時の事を尚大は覚えていないだろう。
でもいいんだ。私だけの秘密だから。
「Aちゃん」
「ん？」
「おかえりなさい」
ふと、体が軽くなった。
さっきまで背中にとても重いものが乗ってるかのようだったのに。
あの日から確かに私の帰る場所は尚大のいる所だと密かに思っていた。
あぁ、この子は私が欲しいときに欲しい言葉をくれる。
不思議だな。
「ただいま！！」
気づいた。
気づいてしまった。
この子に対するこの想いを。
名前を付けてはならない。
この想いは心奥深くに鍵をかけてしまう。
言葉は言霊。
この想いに名前を付けてしまうと抑えが効かない。
この子を傷つける。
それだけは絶対にダメだ。
あの日、この子は私を救ってくれた。
今度は私の番だ。
この子やこの子の大切なものを私が守る。
大丈夫。
嵐という重圧を今まで背負って来れたんだ。
なんならそれを背負い続けたいと願ったんだ。
私ならできる。
この想いがどうなろうと知ったこっちゃない。
尚大が幸せならなんでもいい。
でも、もし
もし願ってもいいのなら
尚大の傍で
隣じゃなくてもいいから
笑っていたいな
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作者名：らび | 作成日時：2023年2月5日 16時
