【プロセカ】それでも私たちは描き続ける(東雲絵名) (ページ6)

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「これ、あげる」

次の日。教室で会うなり絵名ちゃんは小さな紙袋を差し出してきた。ピンク色で、ツヤツヤしてて、可愛い。

「えっ……！？」

驚きと嬉しさと困惑が入り混じった感情のまま、そっと伺うように絵名を見れば、彼女はちょっと恥ずかしそうな顔をして、形の良い唇をツンと尖らせている。

「ほら、昨日メイクとかまだ早いって言ってたでしょ。私は絶対そんなこと無いって思って。そしたら、なんか居ても立っても居られなかったの。これ、そんなに高いやつじゃないし、良かったらつけてみてよ」
「えっ、えっ、開けてもいい……？」
「ふふっ、あげるって言ったでしょ」

おそるおそる紙袋から取り出したそれは、いわゆる口紅とか、リップと呼ばれるものだった。

「わ、綺麗……」

思わず感嘆の息が漏れた。生まれて初めて手にしたそれは、思ったより小さくて、軽くて、落としたら簡単に壊れてしまいそう。

「先生来るまでもうちょっとあるし、つけてあげる」
「で、でも」
「いいから」

Aの頬に手を添え、絵名は真剣な顔でリップを持った。

「目、閉じなさいよ」

唇に冷たい感触。少し変わった香りがする。絵の具とも違うし、なんだろう……口紅なんて、初めてだから。

「……出来た。ほら、鏡見て」

そっと目を開ける。すると、明るいコーラルオレンジがパッと目に飛び込んできた。正直、目元に何も施していないから、少し浮いて見える。でも、不思議だ。明け方まで眠れなくて、ずっと暗く沈んだ気持ちだったのに、なんだか今はそんなことどうでも良いような気がしている。

「なんか……全部どうでも良くなっちゃうくらい、素敵……」
「あははっ、何それ！でも、似合ってるよ。今度時間ある時に下地から全部させてよね」

ああ、どうしよう。泣いちゃいそう。

「絵名ちゃん、ありがとう！ホントに、私今最高に嬉しい！」

お返ししなきゃな。絵名ちゃん何が好きかな。学校来て良かったなぁ。今日初めて、そう思った。

＊

あんなに喜ばれるとは思わなかった。
安物だし、ちょっと子供っぽいかとも思ったし。でも、あんな幸せそうに笑ってくれるなら、

「私まで、嬉しくなっちゃうじゃん……」

授業中、絵名は誰にも聞こえない声で呟いた。

帰り道。

「でね！でね！」

楽しそうに今ハマっているアニメの話をするAに相槌を打ちながら歩いていると、ふと見知った顔が目に入って、絵名は足を止めた。

「あれ、まふゆ？」