【プロセカ】それでも私たちは描き続ける(東雲絵名) (ページ5)

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3枚目ページ5

溢れる涙を袖で拭い、嗚咽を漏らさぬように唇を噛み締める。
お母さんは病気が発症してから、家の物をどんどん捨てていった。冷蔵庫の中身、家具、何かの写真、私や家族の衣類。そして、盗聴器発見機やよくわからない石や数珠を買い求めた。お父さんはサラリーマンで、いつも夜遅くて休みも殆どいない。いわゆるブラック企業ってやつ。給料も良くなくて、私は通常より学費の安い定時制のある高校へ通う事にした。本当は高校だって行きたくなかった。働いて、お金を稼いで、家計を助けられればって。でもお父さんが「絶対に高校に入れ」って言うから、私は仕方なく今の高校に通っている。「入って良かったって思うから」……本当にそんな日が来るのかな。

「A？A？」

ああ、お母さんが呼んでる。
妄想に付き合わされるのは辛いけど、でも、それでも私のお母さんだから。悲鳴をあげる心をキツく抑え込んで、腫れている感覚の瞼を上げ、扉を開けた。

＊

カチ、カチ、と鳴る時計の音を聞きながら、筆を進める25時。

「昨日は○○の5話が配信されて、明日は生放送……早く、早く描いて、タイムラインの流れに乗らないと……」

ドン、と音が聞こえる。続いてお父さんの怒鳴り声。
Aはびくりと肩を振るわせ、描いていた手を止める。
またお母さんが何か言って怒らせたんだ。最近お父さんも寝れてないし、お母さんの病気も良くなる気配が無い。私に出来ることなんて、何も──。
ふと、視界の端にカッターナイフが見えた。
刺しちゃえば？お母さんも、みんなも壊れてく。なら、いっそのこと。

「いやいや、それは無いでしょ」

首を振って、自分の頭に浮かんだ恐ろしい考えを振り払う。

お母さんのこと、好き？嫌い？わからない。昔の私なら満面の笑顔で大好きって言えたと思う。でも、今は無理。
また怒鳴り声。それに加えて何かが割れる音がする。
聞きたく無い。

耳栓の代わり、とまではいかないけれど、最近流行りのバーチャルシンガーの曲を流し、イヤホンで蓋をする。
家族なのに、大事なお母さんなのに、こうやって逃げて自分の心を守ることしか出来ない自分が嫌になる。

「早く、消えろ……」

自分も、お母さんも、みんな嫌い。私の表面だけ見てる学校の人間も嫌い。でも、無遠慮にわかろうとされるのが一番耐えられない。だから、私は逃げる。笑顔で戯けて「私」を守る。

描きかけのアニメの推しが、歪んだ顔でこちらを見つめていた。