【プロセカ】それでも私たちは描き続ける(東雲絵名) (ページ4)

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トイレに行っていたAが帰ってきた。絵名はすっとスマホを伏せると、首を振る。

「ううん、なんでもない。それより今日の帰りにコスメショップ寄っていい？この前買ったリップが良い感じだったから、それに合うアイシャドウ買いたくて」
「おっけー！」

明るく返事をするAは、付き合いが良くて明るくて、いつも愛想が良くて。学校じゃ必要以上に他人と関わろうとしない絵名も、Aにだけは楽な気持ちで接することが出来た。

「それにしても、Aは本当コスメに興味ないよね」
「まぁねー、私にはまだ早いって言うか……」

おどけた調子で頭を掻くAは、絵名から見ても、まぁまぁ可愛いと思う方だと思う。勿体無いなぁ、とその活発な明かりを宿す橙色の瞳を見つめる。すると、彼女は慌てて目を逸らした。

「そんなことより！次の授業数学だよ。小テストあるけど勉強してきた？」
「うっわ……完全に忘れてた」
「私は覚えてたけど勉強してなーい」

あはは、と笑うAは、本当にどこにでもいる女の子で。なんで定時制に通ってるんだろう、と前々から気になっていた疑問が頭をよぎる。でも、人によって理由なんかそれぞれだし、Aだってそういった踏み込んだこと聞いてこないし。私だって絵を描いていることを打ち明けていないから、お互い様だ。別に隠している訳では無いけれど、今の付かず離れずといった距離が割と気に入っているから、しばらくはこのままでいようと思う。

チャイムが鳴り、互いの席に戻る。ふと横目で見たAは、いつも通り退屈そうに数学の教科書を眺めていた。

＊

「ただいま」

玄関を開け、真っ暗な部屋の電気を付ける。リビングの机に突っ伏してお母さんが寝ている。

「おかえり……、あ、ご飯、今温めるからね」
「うん」
「今日は学校どうだった？変な人に付けられてない？」
「大丈夫だよ。変な人なんてそうそういないでしょ」
「そんなことないよ。あのね、盗聴されてるかもしれないから、Aも用心しないとね」
「……そんな訳ないでしょ」

うつ病。統合失調症。精神の病気。難しくて私にはあんまりわからないけど、お母さんはそういった病気を患っている。私が中学2年性の頃に発症した。以降病院に通い、薬で治療しながら回復したり悪化したりを繰り返している。

冷たい言葉を放つ私をお母さんは困ったように笑って見ている。それが嫌で、傷つけるような物言いをしたのは私なのに、泣きそうになってトイレへ駆け込んだ。