彼達の物語はとても (ページ3)

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笑顔で　はたさこページ3

いつも笑顔でいなさい
それが母親に言われた約束
俺は学校には行けなかったんだお金がないのもそうだし
俺には母さんがいたからよかった、それだけで幸せだったんだ
ある日から母さんはおかしくなっていった
よく叫び声をあげていたり包丁を振り回したり正直怖かった
俺の中の母さんが崩れていくようで、俺の母さんが母さんじゃなくなるようで
怖すぎて声が出なかった、けど話しかけたら母さんが変わるんじゃないか
いつも通りになるんじゃないか、そんなことを思って
震える体をなだめて、母さんに言われた約束通りに笑って
「母さん…？」
それでも声は震えていた
母親は俺に気づいて近づいてきた刃物を持ったまま
「いつも、いつもヘラヘラ笑ってなんなのよあんたは幸せそうでいいわよね子供は何も考えなくていいんだから」
「母さんどうしたの」
「うるさい」
「母さっ」
「うるさい！うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい！！！」
「ひっ」
「あんたなんて死ねばいいのよ」
刃物が俺に向かって振りかざされた
「あ、あぁあ！？ぁぁぁあ？！？」
それは何回も、何回も何回も包丁が紅く染まるまで
母さん、母さんいつからあなたはこうなったの
俺に嫌気がさしていたの？それなら言ってくれれば直したよ？
それともなにもないのに俺に包丁を刺したの？
酷いよ母さん
なんでそんなことしたの
母さんは普段はそんなことしない
じゃああれは母さんじゃない？
母さんの形をしたナニカ？
俺はナニカに刺されて死ぬの？
そんなの嫌だ
まだ手は動く、いや体もだとても痛いがやるなら今しかないんだ
母親の形をしたナニカは寝ている疲れたんだろう
近くに俺の血にまみれた包丁が適当に置いてある
少し手を伸ばすとその包丁が届いた
いまさら鉄の匂いなんて気にならない
ぐっと足に力を入れて立つ血が足りないのかフラフラする
ナニカではあるが人の形をしているためやるのには少しためらうが
これは正当防衛、相手は人間じゃない、あれは母さんじゃないんだ
と言い聞かせる
恐怖に支配されていた体が自由に動くようになってきた
いける、俺ならできる
あいつはきっと母さんも殺したんだそれで母さんのマネをしているんだ
きっとそうなんだ
やるのは一瞬だ
できる
俺ならできる
やれ！
背中に向けて思いっきり包丁を振りかざした
ナニカが俺の名前を読んだ気がした
それはいつも母さんが俺を呼ぶときに呼ぶ名前だった