220: 流れ込む記憶 ページ10
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「あまり発疹が出ないのね…。お口の中も大丈夫ね…」
和子さんは慎重に智の顔色を観察していた。
こんなにも心から案じてくれる彼女に、
もっともらしい言い訳すら出来ないことに胸が痛む。
『和子には、はしかとだけ言いましょう』
筋の通った病気の経過を考える翔さんに、
カズがそう言ったのには理由がある。
彼女は智が育児放棄された子供なのではと思っている。
今までも、予防接種の有無や小さい頃の罹患歴等の、
答えに窮する質問をされたことは無い。
だから智のはしかが長引いたとしても、
立ち入らず見守ってくれるはずだと言うんだ。
『…なんか、心苦しい』
『カズママ心配すんじゃん』
『智くん可愛がってくれてるのにさぁ…』
『ま、智の状態が戻るまでよ。しょうがないでしょ』
ピシャリと言い放って話を終えたカズの表情は、
その強い口調を裏切って見えた。
『…判った』
俺も嘘の説明を重ねるよりはと、それを了承したけれど…。
今、俺の脳内に流れ込んでいるのは和子さんの記憶だ。
不鮮明な映像でも病室だと判る。
ベッドの上の男性と笑顔で話す彼女は、今より髪の毛も黒く少し若い。
彼女はカップに入った何かを少しずつ男性に食べさせている。
恐らく、プリンだ。
ふたりの間には穏やかな時間が流れていた。
ぼやけていた映像が鮮明になった。
…俺は、あの男性を知っている。
仏壇の写真の中で微笑んでいたひとだ。
旦那さんは風邪と似た病気の初期症状のせいで、
深刻な病気を見逃して治療が遅れ亡くなったことを、
俺は以前彼女から聞いていた。
だからこそ彼女は、智を心から案じているんだね。
場面が変わった。
相変わらず映像は揺らぎやすいけれど、和子さんの家のようだ。
最初より小さく見える旦那さんは、ベッドに臥せっていた。
傍に置かれた機械から旦那さんに向かって管が伸びている。
家で看取ることにしたんだね…。
再び場面が変わり、手帳片手に電話をする彼女が見えた。
電話の向こうに頭を下げては受話器を置き、再び電話を掛ける。
和子さんはこの頃は携帯を持ってなかったんだな…。
ぼんやり頭の片隅で考えながら、
俺は時折ぼやけるその映像を見守っていた。
彼女は誰かを探していた。必死に。
誰か…、
カズを…。
でも、間に合わなかった。
映像は次第に滲んで見えなくなった。
消える前に見えたのは、暗く哀しみに満ちた色合いだけだった。
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221: 危険な歌→←219: プリン［20170127up］
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のん(プロフ) - はじめまして。ここ数日でここまで読ませていただきました。お話も文章も、とても素敵で心に染み入ります。ご家族の事、ご心労絶えないとは思いますが、ゆっくりでも前を向けますように。mogさんも、潤くんも…。次の更新を心待ちにしています。 (2017年11月27日 13時) (
レス) id: 4c34de8b60 (このIDを非表示/違反報告)
mog(プロフ) - 豆しばさん» 豆しばさん、お返事遅くなりました。優しいお言葉嬉しいです。心から、ありがとうございますと言わせてくださいね。のびのび歌えるさと天使を私も待っています。頑張りますね！ (2017年2月17日 6時) (レス) id: 4a95c6ffde (このIDを非表示/違反報告)
豆しば(プロフ) - mogさん» mogさんお返事ありがとうございます。さと天使に歌わせてあげたい気持ちと、今は歌わないでと願う気持ちと入り乱れて、ふたりの気持ちを思うと切なくて。胸がぎゅうぎゅういってます。どんなにゆっくりでも、いつも楽しみにお話の続きを待っています(^-^) (2017年2月8日 23時) (レス) id: ee15ee3d5e (このIDを非表示/違反報告)
mog(プロフ) - 豆しばさん» 豆しばさんコメントありがとうございます！なかなか進まない物語なのでご心配をおかけしていますね。彼らに寄り添って見守って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます！彼らの間の行き違いがどうなるか、今しばらくお待ちいただくようになります。がんばります！ (2017年2月8日 23時) (レス) id: 4a95c6ffde (このIDを非表示/違反報告)
豆しば(プロフ) - 天使は、じゅんくんは、どうなっちゃうんでしょう？ 心配でなりません。成瀬さんは助けに来てくれないかな？ ふたりまとめて、ぎゅっとしてくるないかな。とか、我が儘なことを思ってしまいます。心配なく、思いきり歌を唄えるようになりますように！ (2017年2月8日 17時) (レス) id: ee15ee3d5e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：mog
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=mog
作成日時：2016年11月22日 17時
