212: 目覚め ページ2
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ぺち…ぺち…
「…ん」
優しく頬を叩く小さな手の感触に、
心地良い眠りからゆっくりと浮上する。
無意識に胸の上を探る腕は空を切った。
「…！」
ギクリとして目を開けると、智が目の前にいた。
…ああ、いた。
良かった…。
激しく打つ胸をさすりながら智を見ると、
満面の笑みを浮かべてやけに嬉しげだ。
…あ。
「飛べるようになったね…！」
体を起こした俺の周りを、ひよひよと不安定ながらも
飛んで回った智は、俺の膝にぽとりと落ちた。
着地は多少あれだけど、かなりの進歩だ。
「凄い」
彼はにこりと笑い、俺の膝の上で正座をして目を瞑った。
あれから1週間が過ぎた。
赤丸を付けたあの日は、カレンダーの真上にある。
この1週間の俺は、智の少しの成長も見逃さないようにしていた。
最初の日の俺は、片時も彼の側を離れることができずに、
シャツの中に抱え込んだ天使に時折キスをしたり、
話しかけたり歌を歌ったり…。
あとは眠り続ける智の顔をただ見つめていた。
小さな寝息がいつ途切れるかも判らない。
俺の指を握りしめる小さな手に力がなくなって、
温かな体が冷たくなって…。
手の中から智の命がすり抜ける恐怖に囚われた俺は、
夜になって仲間たちが来るまで、飯を食うことも忘れていた。
『飯を食え！お前が倒れたら智くんが哀しむだろうが』
従兄弟は顔を見るなり俺を叱った。
『栄養摂らなきゃお乳の出が悪くな…イテッ！』
『お乳ってなによアイバカ』
『意味は伝わるだろ！』
『…まぁね。アンタさ、智にはいい栄養よろしくね』
『よろしくな！』
ばちん！
大きな音を立て、仲良しコンビに背中をどやされた。
『いっ…てぇ』
遅れてやってきた領は、軽く眉尻を下げて喉元を触って言った。
『…天使は、弱っている人間からは栄養を得られませんよ』
彼は智にそっとキスをした。
青い光に包まれたふたりを見ていると、小さな翼が羽ばたきはじめた。
俺は何をしていたんだ。
俺が元気じゃないと、智に弱いエネルギーしかあげられない…。
それぐらい判りきったことだったはずなのに、
俺は智が消えないか心配のあまり、そんなことにも気づけずにいた。
『ほらよ』
深く打ちのめされながら領と智を見つめる俺の前に、
カズがオムレツを置いた。
『うまそう！俺には？』
カズは雅紀に面倒くさそうに返事をして、再びキッチンに立った。
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213: 努力の味→←211: 歌うたいの天使／天使のものがたり［20161122up］
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のん(プロフ) - はじめまして。ここ数日でここまで読ませていただきました。お話も文章も、とても素敵で心に染み入ります。ご家族の事、ご心労絶えないとは思いますが、ゆっくりでも前を向けますように。mogさんも、潤くんも…。次の更新を心待ちにしています。 (2017年11月27日 13時) (
レス) id: 4c34de8b60 (このIDを非表示/違反報告)
mog(プロフ) - 豆しばさん» 豆しばさん、お返事遅くなりました。優しいお言葉嬉しいです。心から、ありがとうございますと言わせてくださいね。のびのび歌えるさと天使を私も待っています。頑張りますね！ (2017年2月17日 6時) (レス) id: 4a95c6ffde (このIDを非表示/違反報告)
豆しば(プロフ) - mogさん» mogさんお返事ありがとうございます。さと天使に歌わせてあげたい気持ちと、今は歌わないでと願う気持ちと入り乱れて、ふたりの気持ちを思うと切なくて。胸がぎゅうぎゅういってます。どんなにゆっくりでも、いつも楽しみにお話の続きを待っています(^-^) (2017年2月8日 23時) (レス) id: ee15ee3d5e (このIDを非表示/違反報告)
mog(プロフ) - 豆しばさん» 豆しばさんコメントありがとうございます！なかなか進まない物語なのでご心配をおかけしていますね。彼らに寄り添って見守って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます！彼らの間の行き違いがどうなるか、今しばらくお待ちいただくようになります。がんばります！ (2017年2月8日 23時) (レス) id: 4a95c6ffde (このIDを非表示/違反報告)
豆しば(プロフ) - 天使は、じゅんくんは、どうなっちゃうんでしょう？ 心配でなりません。成瀬さんは助けに来てくれないかな？ ふたりまとめて、ぎゅっとしてくるないかな。とか、我が儘なことを思ってしまいます。心配なく、思いきり歌を唄えるようになりますように！ (2017年2月8日 17時) (レス) id: ee15ee3d5e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：mog
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=mog
作成日時：2016年11月22日 17時
