出会いは1冊の本より 7 ページ8
また、お互い見つめたまま沈黙が訪れてしまった。
どういうことだろう。メジャーな国を知らないような教養のない人には見えない。
かといって外界を知らないような少数民族の人っていう感じでもないのは見目からして明らかだ。
アレンはうぅんと唸った。
「あの、私の住んでいる国は鳥の都・ウチェッロです」
「うちぇっろ…?街名じゃなくて、国名ですか?」
「国はウチェッロ、住んでいた街はラプタと言います」
そんな国あったっけとアレンは頭を抱える。
世界地図を思い描いてみるがちっとも…。
「ここ、宿だと言いましたよね?でも私、家の自室にいたはずなんです」
「家…ここの利用者で何か本を探しに来たというわけではなく?」
コクリとAは頷いた。
よくよく考えればまぁそうだろう。
とても広く人っ子一人いなかった書庫内、アレンがほんの数秒顔を伏せていただけでは目の前に来ることは出来ない。
まず、目を開けた時にいた彼女は本を探しに来たという様子でもなかったのだから。
「そばに置いていた本がなぜか光ったんです。不思議に思ってその本に触ったら強い光に包まれて、気づいたらここに…」
「あっ!本!!」
アレンは本の存在を思い出した。
いつの間にか手放してしまっていた本を少し離れたところで見つけ拾い上げる。
「っその本、私のです!」
Aの焦ったような声に視線を向けると、返して欲しいというように両手を伸ばしていた。
Aの気迫に思わず本を手渡し、彼女は受け取った本をギュッと胸に抱きしめた。
「これ、私の家に代々伝わる大事な本なんです」
「でもそれ…」
あれ?とアレンは首を傾げ、棚に視線を向ける。
それに習いAもそちらに視線を向けると、ずらりと並んだ本の中央あたりにポカリと一冊分の穴が空いていた。
こてりと首を傾げる彼女に、アレンは今までの出来事を大まかに説明する。
ある場所に向かう途中で何かに呼ばれているような感じがして気になりこの街、宿に寄ったこと。
そしてこの書庫にたどり着き、ポカリと穴が空いている部分にその本があったこと。
同じようにその本が光っていて、手に取り表紙に触れた途端に強い光に包まれ目を開けるとAがいたこと。
アレンが話していく毎に、彼女の麗しい顔の眉間にきゅっと皺が寄った。
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作者名:もふもふ子 | 作成日時:2022年8月7日 21時