彼と彼女の平穏な一日 9 ページ49
静寂に包まれた部屋の中に一つだけ、何度も寝返るシーツの擦れる音が聞こえる。
くるりとこちら側に寝返りを打った際にアレンは声を掛けた。
「眠れないんですか?」
「ごめん、うるさかった?」
「大丈夫。そうじゃなくて、どうしたのかなって」
なんだか落ち着かなくて…とAは言う。
それもそうだ。見知らぬ世界へと来て、一日二日で慣れるわけが無い。
「…アレン、そっち…行ってい?」
「…ダメです」
淋しそうな声に、心揺れる。
僕は男で彼女は女の子僕は紳士と心の内でブツブツ唱える。
「…アレン」
もう一度呼ばれた震える声に、その紳士道は早くも崩れ去った。
どうぞと、ペラリと毛布を捲りあげ彼女を手招く。
そこへとAは身体を横たえた。
少し間を空けて向かい合う。
立派な宿なので、そうやって二人でいても十分な広さのベッドだった。
何を話すわけでもなく、二人の間に置かれたアレンの手の指をAは握ったりまたは絡ませ合ったりする。
なんだかいたたまれず、その手をそっと彼女の身体に回した。
「ずっと思ってましたが、細すぎますね…」
向こうでちゃんと食べてましたか?そう聞くと、祖母がいなくなってからは一日一回だとか、お腹空いたな…と思い出したように食べてたという。
「これからはちゃんと食べましょうね」
「なんだかお祖母さまみたい」
「…この白髪でそう見えます?」
なんでそうなるのとAはからからと笑う。
そんな彼女の唇の端ぎりぎりにキスを落としてやった。
お祖母さまはこんなことしませんねと笑うアレンをAは見つめる。
「…私もしていい?」
どこに…。
くちびるに…と言い終わる前にダメですと返答を被せる。
拗ねたAは、噛みつくようにその喉元へと口付けてやった。
Aの身体に回していたアレンの手がギュッと腰元を抓る。
痛い!とポカポカとアレンの胸を叩き、何するんですかと言ってアレンも抵抗しポカポカと二人して揉み合った。
疲れのかぐったりとしてベッドに沈む。
ふと目が合って微笑みあう。
隙間ないように抱き合って、そっと二人の唇が重なった。
おやすみなさいーーーー。
忘れ物はありませんね?
そう最終確認し、二人と一匹は駅のホームまで来た。
列車に乗り込もうとアレンが先導を切ったが、Aにこっちだと手を引かれ道を正される。
それではいざ、黒の教団へ…。
一冊の本から不思議な出会いをし、お互い自分をさらけ出し、とても穏やかに過ごしたこの街を…旅立った。
※ここまでお読み頂きありがとうございます※→←彼と彼女の平穏な一日 8
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作者名:もふもふ子 | 作成日時:2022年8月7日 21時