僕は…君に… 【D.Gray-man】 (ページ39)

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彼女の世界と力と哀しみと 12 ページ39

ふっとAの身体の力が抜け、唇を離す。
今度はまだ涙が溢れ出る瞳の縁に唇を這わし雫を掬った。

｢…ごめんね、A。この世界ではそれを言ってしまうと、千年伯爵に目を付けられてしまう｣

頬を両手で挟み、こつりと額同士を合わせそう諭す。

｢うん、そ…だったね。ごめっ…よわくて｣
｢っ違う！僕がいけないんだ。君に気の利いた一言すら掛けてやれないっ｣

自分はあれだけ彼女に優しい言葉を掛けてもらったというのに、何一つ返せない。
そんな情けなくて不甲斐ない自分に腹が立つ。

｢ごめん、あれだけ貰っておきながら。君のお祖母さまの代わりにはこれっぽっちも成れないけど、今は…僕で我慢して欲しい｣

そう言ってAをぎゅっと力強く抱き込んだ。

｢そんなことっ…ないよ。そばに、いてくれてっありがとう…｣

また静かに涙を流す彼女を、隙間なく抱き込む。
何も言えない代わりにこの温もりが届けばいいと…。

深い静寂の中…彼女の痛々しい嗚咽と、彼女の背を撫でる音が響いていた。
嗚咽の間隔が段々と緩くなり、やがて消えた。
アレンに寄りかかるAの身体が重みを増した。
力が抜けきって、眠ったようだ。

腕の力を緩めると、がくりとAの頭が傾き慌てて支える。
彼女もとても辛い過去を送っていた。
自分よりももっと…独りだった。
見知らぬこの世界に来てしまっては更に独りとなってしまう。
彼女を守りたいと思った。
自分に寄り添ってくれた彼女を護らなきゃと…。

せっかく眠った彼女を起こさないよう、アレンは壁伝いにゆっくりと身を横たえる。
ぴくりと身動ぎしたが起きなくて良かった。

今はゆっくりと眠ることが出来ればいいと、額にキスを贈る。
そっと優しく抱き直し毛布を引き摺り上げる。
おやすみなさいと、アレンも目を閉じた。

二人が眠りについたのは、午前3時をまわる頃だった…。