出会いは1冊の本より 17 ページ19
手を下ろし、ぱさりとペンタクルがまた髪で隠される。
マナがよく言っていた[立ち止まるな 歩き続けろ]という言葉に、何があっても絶対に立ち止まらないと誓った、約束した。
養父のようにAKUMAとなってしまった囚われた魂を破壊し[救済]するのだと。
人もAKUMAも救うのだと。
そう、アレンは話し終えた。
夜もだいぶ更けてきて、さっきよりも深い静寂が耳に痛い。
今までじっと話を聞いてくれていた彼女がアレンの腿に手を付き立ち上がる。
上手く力が入らなかったのか、ふらついたのを支えて立たせてあげる。
それにふと我に返り今までずっと固い床座らせてしまっていた罪悪感が湧き上がるが、それと同時に触れていた温もりが離れてしまったのがちょっぴり残念な気持ちにもなった。
話を聞いて、彼女はなにを思っだろうか。
この醜い手と同じように、養父をAKUMAにしてしまった僕の罪を受け入れて貰えたら嬉しい。
そんな都合のいいことが起こるだろうか。
出会って間もない彼女になんてことをと思うが、切に願う。
立ち上がりアレンを見下ろすことになったAは、右手でアレンの額の髪をかきあげそっとペンタクルに触れた。
ギクリとアレンは身体を固まらせる。
この呪いに触れる人がいるだなんて…。
そんなアレンをよそにAの手は、すっと目蓋をなぞって頬にたどり着き傷のある頬をそっとその手で覆った。
そこをすりすりと親指で何度も何度も彼女は撫でる。
その温もりがとても嬉しいけれど、無償に与えてくれる優しさがなんだか恐くもある。
そろりと上目に見た彼女の目は、憂いを帯びながらもとても慈愛に満ちていた。
あぁ…なんて…なんて…。
Aの顔にマナの顔が重なった。
彼もいつも無償でこのように愛を与えてくれていた。
マナとの思い出がぶわっと溢れ出す。
ぐっと胸が苦しくなり、あぁ…泣いてしまいそうだ…。
そして無性に彼女の声が聞きたいと思った。
ずっと固い床に座って身体が痛くなってしまったであろう彼女を自分の隣に座らせ、そっと彼女の両手を自身の両手で握りこんだ。
「ねぇ、A…」
「…痛かったでしょう?」
「え?あ、傷ですか?そうですね、最初はやっぱり」
「ちがうよ、心が…だよ」
なにも言えずにいると、彼女がアレンの話を聞いて感じた胸の内を話してくれた。
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作者名:もふもふ子 | 作成日時:2022年8月7日 21時