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両親が息を飲んだ瞬間を、今でも覚えている。


ごく普通の家庭にごく普通の環境。勉強できる設備も整っているし日の光を浴びて公園で走り回ることも出来た。持ち前の愛嬌と明るさで友達も多かったし、近所の大人も自分のことを可愛い可愛いと頭を撫で回した。
それが幸せだと感じることも無いまま、当たり前だとずっと思い込んでいた。

歳がまだ2桁もいかない男児は、毎日どこかしらに怪我をこさえて帰ってくるものである。自分でもそういうものだと感じていたから、手のひらに感じる痛みなんか誰にも言わなかった。
...だから、おかしいと気づいた時には全てが手遅れだったのだ。


ふよふよ、なんて可愛らしい効果音がつくように、水の入ったコップが浮いている。
腰を抜かした張本人を支える兄も唇を震わせて動けなくなっている。妹は彼を信じられないような目で見ていた。母は泣き崩れ父は呆然としている。
初めての能力の発現は、手のひらの痺れと絶望を残した。

街を守るように巡回していたトラックが、サイレンを轟かせて自分を追っている。
父親は自分を自車に押し込んで発進させた。「どこ行くの」「お母さんは」「皆はどうするの?」父親は険しい顔のまま何も答えてくれない。

到着した場所は、いつもなら絶対に近づけてくれない廃都へ繋がる壁だった。

「お、お父さん、ここ...」

怯えながら口を開くと、被せるように肩を勢いよく掴まれる。背の高い父は自分と目線を合わせるためしゃがみ、諭した。

「いいか、よく聞け。お前はもう家に住めない。ファンタジスタが天都に住んでいるなんてバレたらどんなことをされてしまうか分からないから、1人で逃げるんだ。」
「や、やだよ...だって廃都は怖い人がいっぱいいて、野蛮で...」
「それは違う!
廃都に怖い人なんかいないよ。政府が言っていることは全部嘘だ。皆人の痛みがわかる人たちだから、外へ出たら安心して助けを求めるんだ。
必ず、誰かが見つけてくれる。」

永遠の別れのような言い方に、涙があふれる。

「泣いてる暇なんてないぞ?優しい人は絶対いるから大丈夫だ。家族とは離れ離れになるけど....お前なら平気だよ。
だって、お母さんとお父さんの子なんだから。」

近付くサイレンの音に、「行け!!」と叫ばれ弾かれるように走る。
未知の世界へ足を踏み入れると一気に孤独を感じた。肺が軋んで痛いけど、そんなことも気にならないぐらい必死だった。


...かくして、森本慎太郎は廃都の住人となったのである。

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もえなっとう(プロフ) - 藤菜さん» こんばんは!いえいえ全然大丈夫ですよ!?いつもありがとうございます! (2021年1月28日 20時) (レス) id: 9d4a7bc2ed (このIDを非表示/違反報告)
藤菜(プロフ) - こんばんは!余計な事を言ってしまってすみませんでした!続きを楽しみに待ってます! (2021年1月28日 19時) (レス) id: f78a68b7f1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:もえなっとう | 作成日時:2021年1月28日 18時

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