ノスタルジア (ページ7)

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案内されたのは訪れていた弁当屋さんの2階の部屋

事務所のようになっていて、文庫本がパンパンに詰まった本棚や机の上にはお弁当屋さんらしくレシピが細かく書かれた資料が置いてあった

「タオル持ってくるんで、そこ、座っててください」

奥のソファを指さして慌ただしく廊下の奥に引っ込んで行ったホクトさんを見ながら、何だこの状況は。と妙に冷静に考える

…彼氏に浮気されて、悲劇のヒロイン気取りで傘もささずに雨の中を歩いて、弁当屋の店員さんに保護されている。

「…っくりした、座んないの」
「ソファ濡れちゃうから」
「あー…」

大量のタオルを抱えて奥からいそいそとやってきたホクトさんは突っ立ったままの私を見て驚いた。
取り敢えず、とぶっきらぼうに差し出されたタオルをありがたく受け取って服を拭う、けど。

「…意味ないか」

もはや濡れ雑巾のようにビタビタになった服に、今更タオルなんか太刀打ち出来るはずもなく、ただ服の袖から水が滴り落ちるだけだった。

「良かったら、だけど服貸すんで奥で着替えてきてください」
「えっ…いや申し訳ないです、そんな」
「このまま帰したら佐々木さんに怒られるんで。俺が」

佐々木さん、…さっきのおばさんのことか。

渋々了承すると、また奥に引っ込んで行ったホクトさんはグレーのトレーナーを手にすぐ戻ってきた。

指さされた奥の部屋に入って窓ガラスの外を見ると、先程よりも雨足が強くなっていた。