【tn】せめて ページ10
物心がついた頃には隣に彼が居た。
何をするにも一緒で、ずっと一緒にいたから、幼い頃は彼と私は兄妹なんだって信じて疑わなかった。
それくらい同じ時を同じ場所で過ごしてたんだ。
けどその時から17年と少し、月日が流れた今は違う。
｢お嬢様、時間です｣
いつからか彼は私をお嬢様と呼ぶようになり、話す時は堅苦しい敬語を使って、歩く時は常に私の斜め後ろをつくようになった。
小さな差異だったそれらは小さすぎたが故に気にも留めていなかったのに、流れた時の長さに比例して大きくて埋められない溝に変わった。
軽口を叩き合う幼馴染から主と使用人へ
｢本日は、学校からおかえりになってすぐ、会合に向かっていただきます。先日説明した通りではあるのですが、もう一度車の中で確認をしましょう。また、今日は会合がありますから、｣
正直 いまだに彼の標準語には慣れないし、きちっと整えられた風貌にさえ違和感を覚える。
でも、時の流れとそれに伴う関係は不可逆だから、
『うん、わかったよ。ところで明後日の事だけど、』
どんなに泣き叫んでも戻りはしないし、受け入れることしか出来ない。
諦めが形を変えた疲れを飲み込んで、変わった彼との会話に意識を向ける。
いや、変わったのは私も同じか
大人になるっていうのは多分こういうことなんだと思う。
自分の力じゃどうにもならないことを無理やりにでも受け入れられるようになったら、もう無垢だった頃には戻れない。
手を伸ばしたら届く距離に居る彼と、私との距離は月よりも遠い。
いつから なんて嘆いたところでこの運命はずっと昔から決まっていたんだから、
小さな私はその運命に揺られて抗うことなんて出来なかった。
いや、あれもこれも全部、言い訳。
『ねぇ、トントン』
｢何かありましたか？お嬢様｣
『ずっと隣に居てちょうだいね』
君が敬語を使うようになって、私の後ろを歩くようになったのと同じで、私も高いヒールを履いて、苦手だった紅茶を飲むようになった。
変わったのは、私も 君も 同じ
それでも、君の隣は私がいいし、私の隣には君が居て欲しい。
｢っ、もちろんです、いつでも貴女のお傍に｣
一瞬だけ隣で無邪気に笑っていた頃の彼が居たような気がして、前を向くふりをして目じりを拭う。
きっとこの想いが実ることはないだろう。けれど、せめて君との別れの日が来るまでは、この想いを胸に秘めることを許してほしい。
窓の外に見えた空はひどく澄んでいた。
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杏夏(プロフ) - 山田の家さん» レス遅くなって申し訳ありません。コメントありがとうございます。好きだなんて私にはもったいないお言葉、大変痛み入ります。まだまだ 月が綺麗ですね は続きますので楽しんでいただけますと幸いです。 (2020年11月7日 18時) (
レス) id: 516edf94d7 (このIDを非表示/違反報告)
山田の家 - 続編おめでとうございます！あぁ、やっぱりすんごい好きです。 (2020年10月18日 19時) (レス) id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杏夏 | 作成日時：2020年10月18日 19時
