脱走 ページ17
ある朝、突如軍基地から一国の総統が姿を消した。
あまりに唐突な、しかし幹部達にとっては日常と化したその報告は、ある者の口に笑みを浮かばせ、ある者に頭を抱えさせた。
「こちら、ロボロ。幹部全員に報告する。グルッペンが逃走した。手の空いている者はグルッペンの確保に努めよ」
インカムに流れる淀みのない声の持ち主は、軍情報部を取り纏めるロボロである。
橙色の水干を纏い、顔に天と記された面布を着用した背の低い彼は、大きな溜息を吐き、リクライニング式の椅子に背を預ける。
日常的に軍基地を脱走するグルッペンは、毎度彼の右腕に制裁を受けても、懲りずに脱走を繰り返す。
別に牢獄でもなく、彼自身犯罪者でもないのだから、護衛さえ付ければどこに行ってくれても構わないのだが、グルッペンは一人で出掛ける事が重要なのだ、と言っていつも消えてしまう。
しかし最近、彼の妹であるAが帰国してからは、彼はまだ脱走を試みてはいなかった。
やはり妹の前ではあんな奴でも丸くなるのだと、トントンとロボロが酒を飲み交わしながら一つ仕事が減ったと笑っていたのはつい昨日の話だ。
「これはトントン、爆発するかもなぁ」
昨日酒のせいか、顔を赤くして直ぐに布団へ入っていった赤いマフラーの彼を思いつつ、ロボロは基地内の監視カメラの映像を洗う仕事に入った。
_____________________
こちらは書記長室。
インカムに手を当てゆっくりと肩を震わせるトントンと、そのトントンを見ながら眉を顰めているAがいた。
「トントン様…。あの、大丈夫ですか？お気分が優れないようでしたら、残りの書類は頂きますので、お休みになられては？」
その言葉に正気を取り戻したトントンは、目の前の彼女がインカムを持っていないことを思い出し、この状況の説明をしなければならない事を理解した。
今にも爆発しそうなほど震わせていた肩を片手で揉みながら椅子に座り直し、背もたれに背中を預けながらゆっくりと言葉を紡ぐ。
「あー、ロボロから、幹部全員への連絡でな？グルッペンが脱走したらしいんや」
そういうと、Aは呆れたように頭に手を当てて、溜め息を吐いた。
「なるほど、理解しました。兄の不始末ですし、私もお手伝いさせて頂きます。昔からこういう事はよくありましたので」
その言葉を合図のように、書記長室の2人は揃ってその肩を落とした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 427人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
スノードロップ(プロフ) - なめらかさん» 優しいお言葉有難うございます。更新早めて行けるよう努力します (2021年10月4日 13時) (
レス) id: 06ba610413 (このIDを非表示/違反報告)
なめらか - 読みやすくて続きが気になって一気に読んでしまいました…！続き楽しみにしてます！ (2021年10月3日 23時) (レス) @page12 id: bcf5f4df92 (このIDを非表示/違反報告)
スノードロップ(プロフ) - 雪さん» 有難うございます。更新が早くなるよう、頑張っていきます (2021年9月22日 22時) (レス) id: 06ba610413 (このIDを非表示/違反報告)
雪 - 好きです！続き楽しみに待ってます！ (2021年9月20日 14時) (レス) id: 4b6a02972f (このIDを非表示/違反報告)
スノードロップ(プロフ) - 銀狐さん» 温かい言葉を有難うございます！頑張らせていただきます！ (2021年9月14日 17時) (レス) id: 06ba610413 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：スノードロップ | 作成日時：2021年9月13日 1時
