【QK】知りたくなかった。(izko)【BL】

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｢……ごめん！結構長引いちゃった。｣


10分も経たずに伊沢さんが帰ってきた。一応お詫びの品ということで、となっちゃんオレンジを差し出される。オレンジジュースは好きだけど、なんだか子ども扱いされてるみたいでフクザツだ。

でも、俺の顔が曇ったのを察して気遣ってくれた伊沢さんは、なんだかいつもよりかっこよく見えた。


｢……大丈夫？体調悪いなら一回どっかで休もっか？｣

｢…あの、今日付き合わせちゃってすみません。伊沢さん、忙しいのに。」

｢えぇ、今さらじゃね？｣

｢………｣


それもそうか。返す言葉もない。


｢だーからもういいって、こうちゃんからの頼みごとなんて珍しいし、頼れる先輩として後輩の力にならせてよ。｣


『あ、今は恋人でもあるのか』なんておどける優しさに胸が締め付けられる。伊沢さんはこんなに気を使ってくれてるのに、俺はこんな、勝手に傷ついて、


｢…よし、ここらでちゃんとデートするか！｣

｢……は、｣

｢手、繋いでみる？｣


いたずらっ子みたいな顔をしながらはにかむ伊沢さんに、胸がどくんと音を立てる。…悔しい。こんなの思い出作りなのに。やっぱり、どうしようもなく大好きだ。


｢…じゃあ、お願いします｣


伸ばす手が少し震えてしまう。そんな姿を心底面白そうな顔で見てくる伊沢さん。よく見ると耳が若干赤くなっている。…ちょっと、照れないでよ。あんたが自分で言ったくせに。


｢手を繋ぐ練習ってなんか面白くね？｣

｢…なんか、変な感じしますね｣

｢ま、そもそも俺とデートしてんのが変なんだけどね｣


ふわぁと解けるような穏やかな笑顔に面食らう。
…伊沢さんって、こういう風にも笑うんだ。

そんなことを考えると同時に、心が痛んで苦しくなる。
きっと、本当だったらこの笑顔は俺に向けられるものではなくて。伊沢さんの恋人は彼のこんな表情を独り占めできるなんて羨ましい。嫌でもそう思ってしまう。


｢…なんかいつもより優しくないですか？｣

｢ま、俺、こう見えて恋人は甘やかす派だから｣


自分で言っておいて照れくさそうにしないでくださいよ、なんて、さすがに声には出せなかった。鋭いこの人には、すぐにバレてしまいそうだから。


｢…………いいなぁ｣

｢…？今、なんか言った？｣

｢……なんでもないですよ｣


伊沢さんが恋人を甘やかす派だとか、デートする時はこんなに柔らかく笑うんだとか、そんなことまで知りたくなかった。

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