#49 ページ49
.
「……廉、……っ」
『え…？』
思わず溢れ出た雫が頬を伝った瞬間、
今度は自分から廉の胸に飛び込んだ。
『えっなに急に！？どういう流れ！？だってお前…』
「思い出した」
『えっ…思い出したって、…ほんまに？』
「うん。全部じゃないけど。廉が私にとってどれだけ大切な存在かってことは、感覚で覚えてる」
廉は、そのことを知ってたんだね。
最初から知っていて、私の近くにいた。
そう思うと、胸が熱くなった。
もし逆の立場だったら。
私のことなんて全く記憶にない廉が、自分の目の前で何事もなかったかのように過ごしていたら。
そんなの耐えられないと思った。
あまりに残酷で、辛くて、苦しすぎる。
「……ごめんね、廉」
廉は何も言わなかったし表情も見えなかったけれど、
私を包み込むように頭と背中に添えられた大きな手が、きつく強く、優しく、隙間なんてないほどに震える身体を心ごと抱き締めた。
この瞬間だけは、ややこしいことなんて何も考えずに
ただ目の前にいる大切な人の温もりを精一杯感じた。
これが現実かそうじゃないかなんて、そんな普通は考えなくてもいいようなことを思い出してしまったのは、なんだか懐かしい声が、不意にどこからか降ってきたからだった。
『おめでとうございます。ゲームクリアです』
そのよそよそしい口調以外は��いつも通り��と言うべきか
穏やかな表情に笑窪を浮かべて
純白の羽織は月夜の中で色をなくし風に揺れていた。
久しぶりに姿を現した天使は、
私たち二人を交互に見たあとニヤリと妖しく笑った。
そっか。なんだかんだで一応ゲームクリアの条件は達成したことになるんだ。
もともと私は廉が好きで、廉も同じ気持ちで。
私は記憶を奪われてたけどこうして思い出して、
また気持ちは通じたわけで。
何かいろいろよくわかんないけど、
これで解放されるならなんでもいい。
やっと元に戻れる。
疲労と安心から込み上げてきたものを深い溜め息と共に吐き出し、胸を撫で下ろしたときだった。
『お前ちょっとは空気読めや〜、出てくるタイミング悪すぎやろ。もうちょい浸らせてくれてもええやん！』
随分と深まった夜に響き渡った廉の透き通った声。
気の抜けた関西弁は、
明らかに目の前の天使に向けられていた。
……あれ？廉にもこの天使って見えてるの？
っていうか、天使のこと知ってるの？
……なんで？
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 143人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「永瀬廉」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マラム - 初めまして！とても素敵なストーリーで最後は少し涙ぐんでしまいました笑(*´∇｀)是非、続編も読んでみたいです。宜しくお願い致します！ (2022年2月14日 16時) (
レス) id: 4a6419f64c (このIDを非表示/違反報告)
非常口(プロフ) - 香奈さん» 香奈さん コメントありがとうございます。読んでくださり、嬉しいお言葉までくださって本当に愛感謝です(* . .)"今後も温かく見守っていただけたら幸いです。よろしくお願いします！ (2021年9月23日 13時) (レス) id: 2fe7817164 (このIDを非表示/違反報告)
香奈 - 初コメント失礼します。こちらのお話とっても面白くて夢中になって読ませていただきました！とっても読みやすかったです♪また更新を楽しみにしていますねヽ(´▽`)/ (2021年9月23日 8時) (携帯から) (レス) id: ab01dcd0f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：N | 作成日時：2021年9月22日 19時
