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恐怖と、悲哀と、虚無感に襲われた。
それでも、ベッドの上での彼は優しかった。
そっと身体に触れる手も唇も、私の様子を窺いながらゆっくりと進んでいく愛撫も、すべてが繊細で丁寧で。
もちろん��好き��などという言葉が注がれることは決してないものの、そこに愛が存在するんじゃないかと錯覚してしまいそうなくらい私を大切に扱う彼は、優しくて温かくて、どこまでも冷酷だった。
その手でどれだけの女の人に触れてきたのだろう。
このベッドにどれだけの女の人を寝かせてきただろう。
私は何人目で、いつ忘れ去られるのだろう。
そんなどうでもいいことを考えながら、目の前で揺れ動く艶やかな整った顔と、そこから光り滴る汗を眺めていた。
無論、何も残らなかった。
横で紫耀くんが眠ったのを確認してから、空虚なベッドから抜け出してまだ空が暗いうちに自分の部屋へと戻った。
私は何がしたかったんだろう。
好意を寄せていた相手に抱かれて満足？
愛など微塵もない行為を終えて得たものなど何もない。
もしあるとすれば、心のどこかにまだ僅かに残されていた希望が消えてなくなったという事実だけ。
私は試したかったのかもしれない。
彼が本当に軽薄な男なのかどうか。
そして願っていた。
そんな疑念は空想で終わりますようにと。
たとえ誘いに乗ったところで彼が私の軽率な淡い期待を裏切り、私の思い描く理想の彼でいてくれることを望んで。
だけどそれは空想でもなく紛れもない現実として突きつけられ、身を差し出し心に傷を負って返ってきた。
その傷を癒す術などここにはない。
こんなとき神宮寺くんなら、
きっとまたカウンターの向こうからコースターの上に飲み物をポンと置いて、優しい言葉をかけてくれるんだろうな。
それから、廉くんなら。
笑うでもなく慰めるでもなく、有無を言わさずにまた凄い剣幕で怒るのかもしれない。その理由はやっぱりわからないけれど。
そしてその手には熱すぎるくらいのココアを持って、ぶっきらぼうに差し出してくれるような気がした。
呆然とする頭で今日も夜空にぽつんと浮かんでいる月を覗けば、あの日廉くんと見上げた三日月から少し形を変えていた。
自分の情けなさからか、憐れみからか。
いつの間にか溢れていた涙が瞳に映る月を揺らしたとき、「あほちゃうかボケ！」と透き通った怒声が、どこからか聞こえたような気がした。
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マラム - 初めまして！とても素敵なストーリーで最後は少し涙ぐんでしまいました笑(*´∇｀)是非、続編も読んでみたいです。宜しくお願い致します！ (2022年2月14日 16時) (
レス) id: 4a6419f64c (このIDを非表示/違反報告)
非常口(プロフ) - 香奈さん» 香奈さん コメントありがとうございます。読んでくださり、嬉しいお言葉までくださって本当に愛感謝です(* . .)"今後も温かく見守っていただけたら幸いです。よろしくお願いします！ (2021年9月23日 13時) (レス) id: 2fe7817164 (このIDを非表示/違反報告)
香奈 - 初コメント失礼します。こちらのお話とっても面白くて夢中になって読ませていただきました！とっても読みやすかったです♪また更新を楽しみにしていますねヽ(´▽`)/ (2021年9月23日 8時) (携帯から) (レス) id: ab01dcd0f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：N | 作成日時：2021年9月22日 19時
