#16 ページ16
.
まるで黒雲が立ち込める空間に1人取り残されたように、ベッドの縁に座ってぼんやりとしていた。
紫耀くんが2人を連れて帰ってから、
どれくらい経っただろう。
私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。
何を考えたらいいのかさえわからない状態のまま、
何の解決も進歩もせず、同じことばかりを脳内でぐるぐると巡らせていた。
確かにわかったことは、単純に誰かとキスをしただけではゲームクリアとはならないこと。
岸くんにも廉くんにも、それぞれに対する誤解は解けていないまま2人は行ってしまった。
そして、帰り際に彼が置いていった、あの一言。
テーブルの上に置かれているグラスに残された水を眺める度に思い起こされる澄んだ声が、頭から離れない。
紫耀くんと岸くんが一足先に外へ出たあと、ゆっくりと玄関へ向かってきた彼はサンダルに足を入れると、おもむろに振り返ってこう言った。
『お前、ほんまに覚えてないん？』
まるで、何かの話の続きのように。
無情さの中に柔らかさも含まれたような、複雑でありながらも透き通った音と、探るような瞳がほんの少し揺れながら私を捉えて。
その言葉の意図を汲み取る余裕もないほどに、憂いを帯びた薄茶色の瞳はどこまでも奥深く澄んだ海のように、私を引き込もうとして離さなかった。
何も返すことができないまま。
一歩も動くこともできないまま。
『……なんでもない。邪魔したわ』
細くて薄い背中は、ゆっくりと閉じられた扉の向こうへと消えていった。
ほんの短時間でいろいろな彼を見た。
優しい廉くん、怒った廉くん、どこか切なげな廉くん。
最初から距離なんて感じさせないほど自然にそこにいた彼は、まだ名前くらいしか知らない私を相手に、少しの隙も与えずいろんな感情を投げてきた。
それが彼の平常運転だと言われればそれまでだ。
だけど──
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 143人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「永瀬廉」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マラム - 初めまして！とても素敵なストーリーで最後は少し涙ぐんでしまいました笑(*´∇｀)是非、続編も読んでみたいです。宜しくお願い致します！ (2022年2月14日 16時) (
レス) id: 4a6419f64c (このIDを非表示/違反報告)
非常口(プロフ) - 香奈さん» 香奈さん コメントありがとうございます。読んでくださり、嬉しいお言葉までくださって本当に愛感謝です(* . .)"今後も温かく見守っていただけたら幸いです。よろしくお願いします！ (2021年9月23日 13時) (レス) id: 2fe7817164 (このIDを非表示/違反報告)
香奈 - 初コメント失礼します。こちらのお話とっても面白くて夢中になって読ませていただきました！とっても読みやすかったです♪また更新を楽しみにしていますねヽ(´▽`)/ (2021年9月23日 8時) (携帯から) (レス) id: ab01dcd0f2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：N | 作成日時：2021年9月22日 19時
