アメフリレインボウー2ー (ページ10)

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#10 nimbostratus ページ10

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頭がぼーっとする。

バイト中だというのに、何も手につかない。

昨日の夜から

感情の時計の針だけ止まってしまったみたい。

そっと唇に指先をあてて

あのときの感触を思い出す。

あの瞬間、切なさのような、悔しさのような

言いようのない感情と共に込み上げてきた

溢れ出た涙の理由は、自分でもよくわからなかった。

髙橋くんの気持ちに

まったく気づいていなかったわけじゃない。

もちろん彼のことが嫌いなわけでもない。

それでも、彼から伝えられた温度を感じたとき

思わずその場から逃げ出してしまったのは

嬉しさよりも、もっと違う感情に支配されたからだ。

＂…ごめん＂

背を向ける前にポツリと置いていった一言は

目の前にいる髙橋くんの気持ちに向き合うべき瞬間(とき)に

他の人の顔を思い浮かべていた私の

彼に対する精一杯の情けと見せかけた

残酷で無慈悲なものだったかもしれない。

頬を伝う雫を拭いながら駆け出した真っ暗な夜空の下

私は、無性に永瀬くんに会いたくなった。

どうしてだろう。

私の話は聞かなくたっていいから

彼の、少し雑な口調で放たれる言葉で

だけど棘なんて感じない、柔らかくて安心する声で

思いつく限りのくだらない話を

隣で聞かせてほしいと、そう思った。

連絡先は知らないし、会う術もない。

仮にその方法があったとしても

彼に会う口実も真っ当な理由もない。

次に髙橋くんに会ったとき

どんな顔をしたらいいのだろう。

どんな言葉をかけられるのだろう。

まだ抜けきらない戸惑いの気持ちと

時を止めたまま塞がった心の中に

どうしようもない不安を抱えながら過ごしていた。

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そんな日々に変化が訪れたのは

それから一週間ほど経った頃。

連日猛烈な暑さの続いていた束の間に

涼し気な風が通り抜けていた夏の夜。

この日も呆けた頭でバイトをやり過ごし

最後のお客さんを見送ったあと

閉店後の片づけをしていた最中のことだった。

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