#20 balmy ページ20
.
鳴り止まぬ蝉の声。
鋭く照りつける陽射しを喜ぶかのように
ミンミンジリジリと大合唱するこの騒がしさも
あと少しで落ち着いてくるんだろう。
そんな夏のしつこいくらいの暑さには
決して慣れるなんてことはないまま
気づけば夏休みも終盤に差し掛かっていた。
あれから数週間。
いずれ訪れる試練だろうと言わんばかりに
その日はすぐに訪れた。
早朝に漂う焼きたてのパンの匂い。
ではなく、既に温度を逃がし香りを放つ仕事も終えた
パンたちがポツリポツリと並ぶ夕方の時間帯。
敢えていつもより早めにパン屋へと向かって
バイトの準備を終えた私は、休憩室の椅子に座って
もうすぐ現れるであろう彼を待っていた。
少し前までは、自分でも全く予想していなかった。
��どうしようどうしよう��と悶えていたはずの私は
あの日のことを忘れてしまったかのように
�盒兇�んを前にいつもと変わらぬ「おはよう」を
いつも以上の笑顔と共に向けてみせたのだ。
明らかに低いテンションで扉を開けて入ってきた彼は
私の気丈な振る舞いにそれこそ最初は
目を真ん丸にして驚いていたけれど
それ以上は私は何も口にしなかったし
�盒兇�んも何も言ってこなかった。
──これでなかったことにせえよ
もちろん事実はなかったことにはならないけれど
私の中の痛くて苦い記憶は
あのとき不器用に伸びてきた細い腕によって
あたたかくてほんのり甘い記憶に塗り替えられた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 309人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「King&Prince」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：N | 作成日時：2020年9月16日 11時
