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#5 raindrop ページ5
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そんなちっぽけな努力は功を奏さず
靴を履き替えたときには既に
空が嘲笑うかのように雨は降り始めていた。
傘は持っていない。
止むのを待つ時間の余裕もない。
出入り口の手前で空を見上げながら
仕方ない、と諦めて足を踏み出そうとした
その時だった。
雨音だけが鳴る誰もいないはずの静かな空間に
背後でパタン、と乾いた音が響いて
反射的に振り返れば
目に飛び込んできたその姿に
思わず息を呑んだ。
さっき担任の先生と教室を出ていった彼が
��面談��を終えたのか
無表情で外履きに足を突っ込んでいる。
咄嗟にそこから目を逸らすと
急激に身体が熱を上げていくのがわかった。
どうしよう。逃げる？
逃げるって、なんで？
心の中で暴れ出す感情を必死に抑えながら
身体はどうにも動かすことのできないまま
彼は傘立てからビニール傘を一本取り出すと
留め具のボタンを外しながら外に出てきた。
2メートル程離れた場所で
空を見上げるように一度立ち止まった彼から
さりげなく一歩身を引いて
できる限り存在を消すようにそっぽを向く。
早く。早くそこから飛び出して
自分の国へ帰ってください。
こんな雨なんて跳ね除けて
太陽ばかりが降り注ぐ王国へ……
心の中で祈るように唱えていた私の声は
どうやら雨音に掻き消されてしまったみたいだ。
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作者名：N | 作成日時：2020年8月14日 21時
