#find out.11 ページ11
.
全部回ろうとすれば一日かかりそうな
大きなショッピングモールの中を
適当にフラフラしてから再び外に出ると
ほんの少し冷たくなった空気が全身を包んだ。
さっきまで広がっていた青空には
薄いオレンジ色のフィルターが掛かったような
果てない紺碧に淡く陽の差す空の下
時計台に目を向けながら廉がふと立ち止まる。
『日ぃ延びたなぁ』
そう呟いた廉につられるように
その視線の先を見上げれば
時計の針はすでに5時を回っていた。
「ほんとだ。もうこんな時間なんだね」
結局話を切り出すタイミングを失ったまま
気づけば時間だけが過ぎてしまった。
きっとこのままじゃ何も言えずに終わってしまう。
言わなきゃ。
気持ちを言葉にするのは怖いけれど
ここを乗り越えなければ何も変わらない。
握りしめた拳に力を込めて、意を決したと同時に
急激に押し寄せてきた胸の高鳴りを
ぐっと堪えるように息を呑んだ。
「あ、あのさ」
それでも拭いきれない恐れや不安。
俯いたまま絞り出した声は小さかったのか
無言で辺りをキョロキョロと見回している廉には
聞こえていないようだった。
『っしゃ、乗るか！』
「えっ？」
急に降ってきた陽気な声に顔を上げれば
廉の視線の先には、カラフルで大きな観覧車。
『乗りたい言うてたやん』
「あ、うん。そうだけど……」
ずっと変わらず楽しそうな表情の廉を見てしまうと
またタイミングを逃してしまう気がして、戸惑う。
『乗ろうや。 最後に』
日の暮れ始め。日曜の夕方。
きっと明日から廉はまたいつも通り朝早く家を出て
いつも通り忙しい日々を送るんだろう。
だからこれで最後。
あんまり遅くまではいられないから。
廉の言葉は、そんな意味でしかないはずなのに
そっと口角を上げて微笑んだその表情は
やっぱりどこかで見たことのあるような
切なさを含んだもののような気がしてならなかった。
『ほら、はよ行くぞ』
あたりまえに私の手を取って包み込む廉の大きな手。
やわらかくて、あったかくて、心地よくて
その温もりは
涙が出そうなくらい、優しかった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 644人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
7日目の蝉(プロフ) - lemon09さん» lemon09さんコメントありがとうございます！めちゃくちゃ嬉しいです…！そう言ってくださる方がいて本当によかったです。読んでくださってありがとうございました！ (2020年12月10日 22時) (
レス) id: 8841233121 (このIDを非表示/違反報告)
lemon09(プロフ) - 急に終わってしまって寂しくなっちゃいました（笑）でも面白かったです、お疲れ様でした。 (2020年12月9日 4時) (レス) id: 2975f730a7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：N | 作成日時：2020年3月12日 1時
