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見上げれば今にも降り出しそうな雨。

適当に荷物を詰めたボストンバッグを肩にかけ

ビニール傘を片手に、灰色の空の下を

重い足取りで歩いていく。

無理やり押しこんだ気持ちが

簡単に消えることはなくて

それでも今は、自分が選んだ道を進むしかなかった。

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いつのまにか見えていた駅。

向かいから近づいてくる足音にふと顔を上げると

思い浮かべていたその姿が目の前に立っていた。

なんで…

こうならないことを、望んでいたはずなのに。

「……神宮寺に聞いた」

静かに口を開いた彼女から出た

なんとなく予想はしていたその名前に

白い歯を綺麗に見せて笑う

アイドルスマイルが頭に浮かんだ。

『ごめんね、言わなくて』

弱々しく笑って首を横に振るAちゃん。

揺らいでしまいそうな気持ちに必死に蓋をするように

できるだけ明るいトーンで声を絞り出した。

『この間のさ、れんくん？だっけ？

Aちゃんのこと、すっごい大事に思ってるよね。

……ジンも！口開けばAちゃんのことばっか』

本当に伝えたい気持ちは今にも溢れ出しそうなのに

口から出る言葉は、どんどん違うものになっていく。

『傍でちゃんと想ってくれる人がいて

Aちゃんはきっと幸せになれるね』

俺は今、いつものように笑えてるだろうか。

目の前で微かに歪んでいく表情。

だけど一度逸らされたその視線は

意を決したように強い眼差しに変わった。

「私ね、平野くんが好き」

不意に、力強く響いた声。

心のどこかでずっと待っていた彼女からの言葉に

自分も同じ気持ちだと伝えたくなった。

目の前のその小さな体を思わず抱きしめたくなった。

「平野くんは、このままでいいの？」

少し震える声で言葉を紡いだAちゃんが

俺の気持ちに気づいているのかはわからないけど

今その思いに答えることはできなかった。

ただ流れていく沈黙。

不意に降り始めた雨。

彼女の頬を伝っていくものが

空から降り注いでいるものなのか

彼女の瞳から溢れ出しているものなのかは

わからない。わかっちゃいけない。

『風邪引いちゃうよ』

立ち尽くす彼女の手の中の傘を掴んで

その小さな体を守るように頭上に翳す。

込み上げてくるものが彼女の前で溢れてしまう前に

最後に精一杯の笑顔を向けた。

『バイバイ。Aちゃん』

Aちゃん、ごめんね。

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